「どっちに行こう……」
ここがどこなのか情報を集めるにしても、森の中の動物すらいない状況では全く何も出来ない。
まずは人を探さなくてはならない。そのためにはこの森を抜け出さなければならないが、どの方角
に進むかによっても無駄に体力を削ることになってしまう。
リョーマは慎重に考えた。
「よしっ!」
そしてようやく決心すると、太陽が昇る方角、つまり東に向かって歩き出した。
「いつまで歩けばいいんだよ……景吾とキヨが、一緒だったらこんなとこでもきっとあんまり不安な
んか感じないんだろうな……」
木々の葉ずれの音とリョーマの足音のみが唯一の音となる場所なため、思考は知らず知らずに言葉
として発せられていた。けれど、決して返事がくることがないため、そのリョーマの声だけが響くと
余計に不安と寂しさが押し寄せてくる。
「景吾のバカ…キヨのバカ……」
泣きたくなるのを堪えるため、リョーマは二人の悪口を言いながら、足を止めることなく進み続け
たのだった。
一時間近く歩き続けただろうか。
樹齢何十、何百年という大木が大半を占める森はほとんど陽の光が射し込まないため、辺りは一日
中薄暗い。そんな中を更に舗装などされているはずもない道なき道をリョーマが黙々と、――まあこ
こにいない二人に対して文句も言っていたが――進んでいると、少しずつだが明確に明るさが増して
いくのが感じられた。
「やっと出口か……」
さすがのリョーマも少し疲れが見え始めていた。
どこまでも続く暗い森の中。出口がどこにあるのかも分からないため、いつまで、それもたった一
人で全く見も知らぬ場所を歩かなければいけないのかという不安が肉体的にも精神的にも疲れる原因
となっていたからだ。
なので
「眩しっ!?」
ようやく森から脱出。
暗闇に慣れた目は当然ながら急激な光の増長に敏感な反応を返した。
「いい天気だなぁ……………………って、和んでる場合じゃないって!? 早く人探さなきゃ」
現状から無意識に逃げようとする自分自身にツッコミを入れ、現実に舞い戻る。
「今度はどこに行こう?」
再び進むべき方角を迷おうとしたリョーマの視界に自然とは違うモノが微かにだが映った。
リョーマの足は無意識に早くなっていた。だが、それは近付くにつれて明白に自分が毎日暮らして
いた良く知っている家というものとは異なっていることをつきつけられた。
「っ……やっぱり…………でも、何で俺がっ」
ここが異世界なのだと自分の目で確認してしまっては否定したくても、否定出来ない。もしかした
ら、どこかの舞台や映画のセットに万に一つの可能性で紛れ込んだのかもしれないという考えが頭を
過ぎるが、ここに来る時に体験したことも本来なら到底有り得ないこと。あのリアルさは夢では絶対
に有り得ない。いくら頭で否定しても現実に体験してしまったことは否定しようとしても出来ないの
である。しかし、理解はするが、いやしてやるといった方がいいのかもしれないが、当然納得は出来
ない。出来るはずがない。
けれども、このままここで悩んでいても事態が変わることはないため、村と推測される人が住んで
いる場所の様子を探るため、警戒しながら近付いていった。
◆◆コメント◆◆
一体どこに辿り着いたのやら。
景吾とキヨはどうやらいなかったもよう。
リョーマさんはこれから一人で頑張ります!
きっと!!
2005.05.23 如月水瀬