『青灰色の瞳を持つ者は禍を宿す
禍は強大にして影響は全てのモノに
幸いの術は一つ
青灰色の者を我の元へ』
そこは静謐で、穢れを知らない神聖な空気のみが存在していた。
不浄なものは全て生い茂る木々に排除されているかのように。
人間という動物以外の動植物はそこでは自然の摂理に則った生き方をしている。
ここは、この森は要らぬ争いを繰り返す人間を拒絶していた。この地に迷い込んだ人間は誰一人と
して、還れた者はいない。子どもを除いては。
大人たちのようにまだ穢れを知らぬ純粋な彼等ならば、木々たち、いや正確には木々に宿る精霊や
神たちが還してくれるのだ。もしかしたら、穢れきった大人にはならないかもしれないというほんの
僅かな希望を託して……
けれども、結局は裏切られるだけなのだ。なので、子どもにも容赦のない精霊や神たちもいたため
一概には言えないのだった。
そんな草木生い茂る、鬱蒼とした森の中心には聖水ともいえる清水が湧き出ている小さな泉があっ
た。森に住む動物たちはこの水で渇いたのどを潤すのだ。
まだ人には知られていない泉。
そこに突如静謐な雰囲気を消滅させるかのように空間に歪みが現れ、現れたかと思うと一瞬にして
ポッカリと穴が開いた。そう次元の穴が。そして次元の穴は一人の少年を吐き出すと現れた時と同じ
ように一瞬で跡形もなく消え去ったのだった。
その場には再び静けさが戻ったが、泉の側には意識のない学生服を纏った少年リョーマが横たわっ
ていた。
――コノコハ……
――コノキシツ…………アノカタノ?
――……トキガタツノハハヤイ
――ソウダナ
――ドウスル?
――ワレラニハナニモデキナイ……ユイイツハ…………
囁きに近い声が意識のないリョーマの上で飛び交う。そして途切れたかと思うとリョーマの上にキ
ラキラと光る水が降り注がれる。水はスッとリョーマの全身に染み込んでいったのだった。
「……んっ」
どれぐらい経ったのか、ようやくリョーマが目を覚まそうと身動ぎした。いつもは寝ぎたないリョ
ーマだが、この度は状況が異なったためかそれほど時間をかけずして覚醒した。
「ここは……」
辺りを見回すが目の前に小さな泉があるだけで他はどこを見ても大きな木々しか目に写らない。
「森? ……なんでこんなとこに……」
リョーマはここに至るまでの自分の行動を振り返る。
そう今日はいつものように部活後に跡部と千石と待ち合わせして、ハンバーガーを食べながら他愛
もない話をして、そろそろ夕飯の時間だからと別れた瞬間だった。急に目の前に変な歪みが出来たと
思ったら、真っ黒い穴が出現して、自分を飲み込んだのだ。跡部と千石に助けを求めたが間に合わな
くて……。
「!? 景吾とキヨは!!」
自分が吸い込まれたのだからもしかして二人もと考え、もう一度辺りを見回すが、景色は前と変わ
らない。
景吾、キヨ!と大きな声で叫んでみても、リョーマの声がこだまするだけで自分の名前を呼ぶ彼等
の声は返ってこなかった。あまり深くを探せば、自身もヤバイ状況に陥る可能性が高い。泉を軸とし
て半径1、2キロ辺りを探索するがやはり影も形も見つからない。
「やっぱいないよね。……あの状況じゃ景吾たちも吸い込まれたかどうか怪しいし。どうにかして帰
るにしても、まずはここがどこなのか調べないといけないよね……」
自身に言い聞かせるように呟くと、リョーマは家に帰るための行動を開始するのだった。
◆◆コメント◆◆
一体どこに辿り着いたのやら。
景吾とキヨはどうやらいなかったもよう。
リョーマさんはこれから一人で頑張ります!
きっと!!
2005.05.19 如月水瀬