君という光 第二章 2


  




「ゴメン! 遅れた!!」

「遅ぇぞ!」

「俺たちも来たばっかだから、気にしなくていいよぉ」

 予想とたがわぬ反応が返ってくるとリョーマの頬は自然と弛む。

「何笑ってやがる。ったく、俺様を平気な顔で待たせるのはお前ぐらいだぜ」

「フフフ。こんなコト言ってるけど、リョーマ君が来るまでスゴイ心配してたんだよぉ。何か、事故

でも合ったんじゃないかって、いつも冷静でめったなことじゃ顔色変えない彼が真っ青になっちゃう

わ、挙動不審になり、水倒すわ。もう大変、大変」

「えっ!?」

 千石の言葉を聞いたリョーマは、跡部の顔を思わず凝視した。

「千石てめぇ!!」

「えぇ、ホントのコトでしょ? 別に照れるコトないじゃん。リョーマ君が心配だったんでしょ?」

「っ……」

 図星をつかれて言葉を返せない跡部にリョーマはもう我慢の限界だった。

 あの俺様な跡部景吾が自分が待ち合わせにちょっと遅れたくらいで、心配して右往左往していたな

んて、笑うところでは決してないのだが笑いがこみあげてきて、リョーマはとうとう吹き出してしま

った。

「プッ! アハハハ……。ゴ、ゴメン景吾。……ククッ…笑うトコじゃ……ハハ…ないって分かって

るけど……」

 一応先に謝りの言葉をなんとか告げると、後は盛大に笑いだした。

 周りの人々の注目を集めるが、そんなことより今はこみあげてくる笑いを制御することの方が大事。

制御するといっても一度出てしまったものを止める術は、気が済むまでやるのが一番良いかどうかは

疑問だが、リョーマも二人も止める気は毛頭なかった。











「楽しそうだねぇ」

「俺はてめぇのせいで最悪だ!」

「アハハ。気にしない、気にしない」

「少しは気にしろよ!」

「リョーマ君が笑ってくれてるんだからいいじゃない、ね?」

「…………まあな」

 渋々ながら千石の言葉に頷くが、いまだ笑っているリョーマを見ると跡部の表情もいつもより柔ら

かいものになり、瞳は優しさに満ちていた。千石のリョーマを見つめる瞳も跡部と同じく優しげなも

のだ。





 そんな穏やかで暖かな現在(いま)だからこそ、ふと呟いていた。

「このままでいられたらね……」

「……そうだな」

 それはどうしても願ってしまう、けれど決して叶うことのない願い。

 万が一叶うことがあればどんなに嬉しいだろう。

 けれど、それは絶対に有ってはならないことなのだから。

 二人の瞳には今度は哀しみの色が混じっていた。











 カタンッ

「アレ? ドコ行くの?」

「ファンタ買ってくる」

「そうだね。そろそろリョーマ君も落ち着くだろうし、のども渇いてるだろうしね」

「あぁ。てめぇは何かいるか?」

「ん〜、じゃあカフェ・オレで♪」

 言葉と同時に跡部は席を外した。





「景吾は?」

 ようやく笑い終えたリョーマが二人の方を向くと一人足りない。

「のど渇いたでしょ?」

 コクリと頷く。

「今、買いに行ってくれてるんだよ」

「お礼……言わなきゃだね」

「そうだね」

「何が「そうだね」なんだ?」

 尋ねながら、手にしていたトレイの一つ、ハンバーガーが数個とドリンク、ポテトがのった方をリ

ョーマの前に、ドリンク2つだけがのったトレイを千石の前に置き、ちゃっかりとリョーマの隣の席

に座るのだった。

「サンクス、景吾」

 小さく、だが、確実に跡部に聞こえる声で感謝の気持ちを述べると、目の前にあるハンバーガーを

片付け始める。その顔は微かに紅くなっていた。











「じゃあ、次は金曜っスね」

 いつもの別れの時間はあっという間にやって来た。

 一応の確認のためリョーマが言うと、二人はしっかりと頷くのだった。

「今日も楽しかった。お休み、景吾! キヨ!」

「ああ」

「お休み、リョーマ君♪」

 それぞれ挨拶をして別れようとした時だった。

「え!! な、何?」

 リョーマの驚愕の声が聞こえ、帰途につこうとしていた跡部と千石の二人ともが急いで振り返った。

「「!?」」

「け、景吾! キヨ!」

 必死に二人に助けを求め、叫ぶリョーマ。

 二人が目にしたリョーマの状態は、通常の空間に突如歪みが生じ、人一人を呑み込めるほどの穴と

なり、それがリョーマを呑み込もうとしていたのだ。

「助け……」

 当然二人は助けようと手を伸ばすが、僅かに届かず、二人の目の前でリョーマは呑み込まれてしま

った。

 後には、閉じようと収縮していく空間の歪み。





「何の準備もないが仕方ない、行くぞ! 千石」

「当然でしょう!」

 お互いに気持ちを確認し合うと、怯むことなく、今にも閉じようとする空間の歪みにリョーマを追

って飛び込んで行ったのだった。




















      ◆◆コメント◆◆
       はい、取りあえず予告通りリョーマさん吸収されました(笑)
       そして、躊躇することなく後を追う二人。
       『愛』
       ですね♪
       さあ、これから三人に待ち受ける運命は一体どんなものなのでしょう?
       無事戻って来れるのか!?(←管理人にもまだ分かりません!)

             2005.05.11  如月水瀬