「お疲れ様っス!」
「おう、お疲れって、越前もう帰るのかよ?」
部室のドアに手をかけたリョーマを呼び止めたのは何かと仲の良い一つ上の先輩桃城武。ここ最近、
突然付き合いの悪くなった後輩に少しだけ不満を抱いている。以前は誘わなくても間食をたかってき
ていたというのに……。
「急ぐんで」
「またかよ。最近付き合い悪いぞ。今日も帰りにハンバーガー食って帰ろうと思ってたのにさ」
溜った不満をとうとう口にすると、
「あー。悪いっス桃先輩。でも、どうしても外せないんスよ。明日は空いてるんで明日誘って下さい。
ダメっスか?」
「仕方ねぇなぁ。その変わりちゃんと約束したんだドタキャンはなしだぜ?」
「わかってるっス! じゃあ、また明日!! さよなら」
言い終ると同時にリョーマの姿はドアの向こうに消えた。
「桃♪ 俺と不二もねv」
「はぁ? 何でそうなるんすか?」
「僕たちもリョーマ君と寄り道したいからv 何か駄目な理由でもあるのかな?」
「いえ、滅相もないです(泣)……」
「そう? 良かったv」
この時桃城には悪魔の声が聴こえたとか……。
「不二」
「何? 乾」
「いいデータを頼む」
「君も気になってたんだね。わかった。でも、高いからね?」
「まぁ、今回は仕方ない」
「了解」
青学テニス部を裏で操っている筆頭不二周助と次席乾貞治の会話。
大事な部分を隠しての会話は他のレギュラー陣には通じていなかった。
一方、学校を出たリョーマは待ち合わせの店に急いでいた。
レギュラーといえども、所詮まだ入ったばかりの一年生。当然部活後の後片付けが免れるはずがな
い。今日はメンバーが悪く、少々手間取ってしまったのだ。現在待ち合わせ時間をすでに10分ほど過
ぎていた。
「絶対、景吾怒ってるよねぇ。キヨは笑って許してくれるだろうけど……」
簡単に想像出来る二人の顔に自然と笑みが溢れる。
一月ほど前には今の状態など欠片も想像できなかった。初めて会ったというのに二人は遠慮など全
くなく、自分の両親も親戚の子どもみたいな扱いをしていた。だから、最初は反発していたリョーマ
も二人がいる状態が自然なんだと感じるようになり、無駄なことはせず、受け入れることにしたのだ
った。それからはもう幼馴染みかというぐらいの仲の良さ。もちろんケンカもするけれど。今日も定
例となった週一の雑談会。これの他に実はお泊まり会もあったりするのだが、それはまた別の機会に。
雑談会。
本当にどうでも良いことを話しているだけなのだが、リョーマを好きな二人は甘やかしている。代
金は千石か跡部持ち。リョーマが払うことはこれから先もないだろう。だからというわけではないが、
リョーマはこの日を毎週楽しみにしていたりする。三人でいるだけで何故かホッとするのだ。それが
あたり前のように、またどこか懐かしさも感じていたのが本当の理由。けれど、たまに一瞬だがふと
感じる何かが、誰かが足りないという思い。解答に辿り着けないため、気になって、気になって仕方
がないのだが、彼等に話す勇気はない。勘違いだとあまりにも恥ずかしいために。いつか分かるだろ
うとポジティブな思考でこのことは頭の隅に保管しているのだった。
跡部の機嫌の悪い時間が少しでも短くなるようにリョーマは急ぐ。
これが平穏な日常を過ごす最後なのだと当然考えもしないだろう。
リョーマにこれから起こること、それは……
定めの輪は確実に回り出していた。
◆◆コメント◆◆
第二章の始まりです。
もうすぐで本当にパラレルになります。
けれどまだ、もう少し、というか次までは通常の世界です。恐らく……(^_^;)
早くメインを書きたいです!!(←だったらもっと頑張れよ!って感じですね/笑)
2005.05.06 如月水瀬