平安異聞 捌  


  


 
 最初は軽く触れる程度だった。けれど、次第にエスカレートしていく。

 限度という言葉を知ってか知らずか、不二は行為を深いものに変えていく。

「んっ……」

 当然息苦しくなるリョーマは覚醒はしていないが無意識に酸素を求めて障害物を退け

ようとする。が、不二が素直に止めるはずがない。寧ろ更にしつこくリョーマの柔らか

な唇を味わいながら、薄く開いた唇の隙間から己の舌をソッと侵入させる。

 とうとうリョーマは苦しくなり、夢の世界から現実の世界に戻ってきた。

「っ!!」

 覚醒したのは良かったが自分の今の状況に思考回路が停止寸前までいった。

 なんとか停止は免れたが。

 起きたら目の前に見知らぬ男がいて自分をおそっている。普通の姫なら卒倒してもお

かしくない。まあ、そんなことになれば自分の身がもっと危険なのだが。

 しかし、リョーマは普通の姫ではなかった。





「アンタ誰?」

 今までにない反応に思わず、不二は手を止めてしまった。

 一瞬だが出来てしまった隙。それをリョーマが見逃すはずはなかった。

 見事不二の魔の手から逃れることに成功した。

「……」

「で、アンタ誰なわけ? 何人が寝てる時に勝手に襲ってんのさ?」

 乱れた衣装を整えながら少しずつ確実に不二との距離を取る。

「僕は不二周助だよ」

 非難されているにも関わらず、傲岸不遜にも不二は綺麗な笑顔を見せながら今更なが

らに名を名乗る。

「だから……うわっ!?」

 言葉は最後まで発せられず、不意をつかれリョーマは再び不二に組み敷かれてしまっ

た。

「ちょっ!?  何するんだよ!!」

 夜着に手をかけられ、脱がされそうになるのを必死で食い止めようと抵抗する。

「何って、もちろんこれからリョーマ君を抱くんだよv だから大人しくしてね。でな

いと僕も加減が出来ないから」

 包み隠さずはっきりと言う不二にリョーマは口をパクパクさせるのみ。

 その間に不二は巧みな手腕で帯をほどき、夜着の中に手を入れようとした時





「わぁ――!? ストップ、ストップ!!」

「リョーマ君。少し静かにしようね」

 そんなこと出来るか!!とツッコミを入れたかったが今はそれどころではない。


「だ、大事なことなんだよ! 俺は姫じゃない。男だ!!」

 それはもう必死に叫んだ。  けれど相手は運の悪いことに不二。不二以外であれば回避出来たかもしれない。 「大丈夫。僕は性別なんて少しも気にしないからvv 安心してね」  一体どこに安心する要素があるというのだろうか?  意識を飛ばしたいというのが本音だが、不二を目の前には正に狼の群れに子羊を与え ることと同義語である。  しかし、何度か叫んでいるのに何故桜乃たちが駆け付けて来ないのが不思議でならな い。  同時に怒りも感じているが。 「少しは気にしろよ!?」  怒りをぶつけてみると 「人を好きになるのに性別なんて関係ないでしょ?」 「へ、変態……」 「酷いなぁ」  言葉と表情は裏腹だった。 (ほ、本当にヤバイかも……)  リョーマは不二が物凄くアブナイ人物なのだと今更ながらに気付き、それはもう必死 で逃げようとするのだがどうにもならない。  叫ぼうとするも再び不二の唇によって口を塞がれ声にならない声が響く。 「っ…ふぅ……んっ……」  更に舌まで入れられ、口内を好き勝手に蹂躙されれば、このような行為が初めてなリ ョーマはひとたまりもない。  抵抗するために伸ばされた手はいつしか不二の身体に縋り付くためのものとかしてい る。 「……んも……ヤ…ダァ……」 「可愛いなぁ♪ 大丈夫幸せにするから」    部屋には微かなリョーマの喘ぎ声と衣擦れの音が響いている。        next  back