平安異聞 玖  


  





「何でまだ、いるんだよ!!」





 夏と言えど、早朝はやはり肌寒い。

 リョーマは無意識に温もりを探してしまう。そしてすぐに温かいモノを見つけすり寄

った。

 気持ち良くてもう一眠りしようとしたところでおかしいことに気付いた。



「痛っ!?」

 眠い目を擦りながら身体を起こそうとするが起き上がれない。というより力を入れる

と痛みが走ったのだった。

「ダメだよ。急に起きたりしちゃ。リョーマ君があんまり可愛いから僕も手加減できな

かったし、ましてや君は初めてだったんだから」

 早朝だというのに髪の毛の一本に至るまで乱れのない不二。

 すぐには反応できなかった。

 固まること数分。

 そして冒頭の叫びに戻るのだった。









「リョーマ君と一緒にいたいからvv」

「アンタに常識はないのか!!」

「えっ!? 僕が常識だから何も間違ったことはしてないよ。ということでリョーマ君。

僕の妻になってねvv」

 あまりにも突飛過ぎる言葉にリョーマはついていけない。その上妻になれときた。

 しきたりとか慣習という言葉はコイツの頭にはないのか?と被害者であるリョーマが

被疑者のために頭を抱えるというのもおかしなものである。

「……ぅわっ!?」

 常識が全く通用しない不二は頭を抱えて無防備なリョーマを軽々と抱き上げ、退出し

ようとする。手足、身体使えるもの全て使用して抵抗するも身体は本調子ではないは、

不二にはしっかりと抱き上げられているはでリョーマの抵抗は可愛らしいものでしかな

かった。

「ヤダヤダ!! どこ連れてく気だよ。放せ――!!」

「放したら逃げちゃうでしょ?」

「そんなのトーゼンじゃん!」

「じゃあダメvv」

 その瞬間殺意が生まれた。

 それはもうくっきり、はっきりと。

 リョーマは袖の中に手を入れ、あるモノを探した。が……



「……ア、アレ?」

 何度探ってもないものはない。



(なんで……?)



「リョーマ君の探しモノはコレかな?」

 見ると不二の手にしっかりと目的のモノ、全長30センチほどの守り刀が握られていた。

「あぶないから僕が預かってたんだよ」

 綺麗な笑顔付きなソレは確信犯以外の何物でもない。

「っ誰か! 桜乃! ばーさん!!」

 切札のなくなったリョーマは渾身の力を振り絞り叫んだ。

 昨夜のこともあったのだが、もうこれしか思いつかなかったのだ。







 今度こそ願いが天に届き、すぐさまバタバタと二人分の足音が聞こえてくる。

 顔が見えずとも今の危険な状態を少しでも早く知らせるために叫び続ける。

「助けて!!」

 普段生意気さいっぱいのリョーマが縋る目で自分たちを見つめてくる。

 一体誰が何をしたのだ?と竜崎スミレが犯人を目にすると、

「……不二かい?」

「アレ? スミレちゃんじゃない」

 知り合いらしい。それもお互い気心が知れた仲なのが呼称から窺える。

「スミレちゃんは止めんかい!! というか、何でお前さんがここにおるんじゃ?」

「見て分からないですか?」

 抱き上げているリョーマを見せ付けるように抱き直す。

「まさかリョーマをお前さんの妃にするつもりかい?」

「ハイvv」

 即答する不二に当然のように待ったがかかる。

「ちょっ!? 何勝手に決めてんだよ! 俺はアンタの妻になる気なんてこれっぽっち

もないんだから!!」

 息を乱しながら精一杯叫ぶ。

 けれど返事はスミレからの非情な言葉であった。

「リョーマ、諦めな。コイツは、いや、この方はこれでも今上帝の弟。つまり今東宮だ。

認めたくなくとも既成事実もあることだし、いくらアタシでもどうすることも出来ん」

「おばあちゃん……」

「東宮? こんな常識も知らないヒトデナシが?」

「酷いなぁ。これから夫になるっていうのに……」

「酷いのはどっちだ!! 俺は絶対にアンタの妻になんかならない!! 東宮妃になり

たいと思ってる姫なんてそこら中にいるだろ。その中から選べばいいじゃん。俺は断る

! アンタの妻になるくらいなら出家する! 桜乃、今すぐ準備して!!」

「リョ、リョーマ君、何てコト言うの!?」

 桜乃はオロオロするばかり。



「僕は君以外は妻にする気はないよ。だから一緒に帰ろうねvv」

 再びしっかりと抱き上げると歩きだす。

「イ・ヤ・ダ―!!」

 叫ぶリョーマをキレイに無視して。

「あ、そうだ!」

 突然足を止め振り返ると桜乃を見つめる。

「な、何ですか?」

 ビクビクしながら答えると

「桜乃ちゃんだっけ? リョーマ君の側女だよね? 一人だとリョーマ君も寂しがると

思うし、顔見知りが側にいた方が安心すると思うから、君も来てv いいですよね、ス

ミレちゃん」

「仕方あるまい。桜乃、リョーマのこと頼んだよ!」

「うん、おばあちゃん」

 当人のリョーマをそれはもう綺麗さっぱり無視して話は進んでいく。

 実際、取り返しのつかないところまできているのだが、味方が全くいない状態ではど

うしようもない。取りあえず今は大人しくして、身体が元に戻ったら必ず逃げることを

誰に誓うともなく心の中で強く強く誓うのであった。







「「ふ、不二(先輩)?」」

 腕の中に明らかに無理矢理浚ってきたと思われる姫と、二人の後ろに付いてきている

姫の側女らしき少女を見て菊丸と桃城は不二に問いかける。

「これから僕の妃になるリョーマ君とその側女の桜乃ちゃんだよ。取りあえず一度桂の

トコに戻るから。で、挨拶したらすぐに御所に戻るから宜しくね♪」

 嬉しそうに語る不二に二人は悔しさもあったが、幼馴染みである彼が幸せになるのを

純粋に祝福する気持ちも少しだけあったりするのだった。





 そして、あれやこれやという間に無事(?)東宮妃となったリョーマは、不二と幸せ

に暮らしたとか……







       ―― 第一部完 ――         





     ◆◆コメント◆◆
      何とか無事(?)完結いたしました!!
      本当は先月中に終わらせるつもりだったんですが、
           仕事が残業続きで帰宅するなり
      バタンキューの状態だったんです(T T)
      通勤の電車の中でケータイで少しずつ書いてて、
           やっと本日完成です!!
      気付いた方はいらっしゃるのかな?
      そう、完結なんですが、第一部完となっております。ハイ。
      実はこの話、続きがあったりいたします(笑)
      何か反応が(メールとかカキコとか)あれば
           続き書くかもしれません。予定は未定ですが……
      ここまでお付き合いいただいて本当にありがとうございましたm(_)m

        2005.3.5 如月水瀬





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