「やっぱり御簾越しじゃなく、直に見るのが一番だね。桜乃もそう思わない?」
「そうだね。それよりリョーマ君」
話を急に変えた桜乃にリョーマはその大きくて綺麗な瞳で何?と問う。
その仕種がまたもや不二の心を揺さぶったのは言うまでもない。
「数日前に届いた文に何て返事したの?」
「どうして?」
「文がアレ一回きりだったから。いつもならもっとしつこいじゃない? だから何て返
事したのかなって」
「返事なんてしてないよ」
「へ?」
らしくない返事をする桜乃にリョーマは悪戯に成功したような笑みを向ける。
「読んでもいないしね」
「えっ、………………ええ――――!?」
「桜乃ウルサイ」
部屋中もしくは屋敷中に響き渡った声に耳を塞ぎながら文句を言う。
「ご、ごめん! でも、読んでないってどうして……」
「面倒臭いから」
容赦ない一言をリョーマは平然と口にする。
送った本人がすぐ側にいるとも知らずに……
「まさか読んでないなんてね。僕もまだまだだね♪ あの姫の様子だともう一度送って
も一緒なんだろうなぁ……。どうしようかな?」
不二はいつになく考え込んでいた。いつも以上にニコニコと微笑みながら。
「確実にモノにするならやっぱアレだよね。うん、決定! じゃあ急いで準備しなきゃ
ねvv」
名案が浮かんだらしい不二は名残惜しいと思いながらも、リョーマの姿を一度熱い視
線で見つめるとその場から立ち去る。
「!」
「どうしたのリョーマ君?」
突然生け垣の方をきつい眼差しで見たリョーマに桜乃はいぶかしむ。
「……リョーマ君?」
「…………ん、なんでもないよ桜乃」
(気のせいか? なんか嫌な視線を感じたんだけど……)
桜乃にはなんでもないと言いながらも、どうしても気になった視線にリョーマは何度
も生け垣の方を見るのだった。それは女房頭である桜乃の祖母スミレに怒鳴られるまで
続いた。
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