暴漢たちが視界に映した人物は、金髪とも見れる茶色の髪の青年。余分な肉が一切つ
いていないスラリとした体躯。そうどこを取っても暴漢どもには及びもしない全体的に
整った美を持つ青年だった。
青年は微笑んでいる。それはもう秀麗に。
けれど、瞳はソレとは対照的にとても冷えた彩を宿していた。
「……っ」
暴漢たちはその微笑みに恐怖を感じた。命が惜しくば逆らってはいけないと心が訴え
ている。背中には滝のように嫌な汗が流れ出し、リョーマに対する意識が疎かになって
いた。
リョーマがソレを見逃すはずがない。押さえつけられていた腕を押しのけ、隙を作っ
てくれた人物に駆け寄り、自然と青年の身体の後ろに隠れたのだった。青年もそれが当
然とばかりにリョーマが自分の背中に隠れると二度と触れさせないとばかりに手でガー
ドする。
「謀りやがったな!!」
「悪いけど、俺たちは初対面だよ。そんなわけはないよ。君たちが俺に気を取られて、
彼をフリーにしたのがいけない」
「ごちゃごちゃ、ウルセー!! おい、手加減なしで、やっちまえ!!」
「「おう!!」」
3対1の時の冷静さはどこへやら、形振り構わずというか、これが本来の気性なのだ
ろう、二人に命令すると今度は青年に三人で襲い掛かる。
「意気込んでるところ、悪いんだけど、君たちの相手は俺じゃないよ。後は頼むよ、葵、
いっちゃん、バネ、ダビデ」
「任せて下さい! サエさん」
「任せるのね」
「任せろ!!」
「好調、好調、校長先生」
「校長先生ってなんだ!!」
「ぐっ!!」
バネと呼ばれた青年はダビデと呼ばれた青年に見事な回し蹴り決めた。
いつの間にやら、特徴的な青年たちが四人も増えていた。
「さあ、後は彼らに任せて、東宮妃はこちらへ」
「え!? なんで……」
自分の身分を知る者。会ったことなどないはずだ。特にこのように印象的な公達を忘
れようはずがない。ならば何故この公達は自分のことを知っているのか。疑問が不信感
を膨らませる。
「大丈夫。俺は貴女の味方です」
「……それを信じろって言うわけ?」
「そうですね。疑うのは当然ですね。けれど信じて頂くしか……俺、いえ私の身分を明
かせば余計に不振を抱きそうですしね」
「そんなにヤバイ人なわけ? そうは見えないけど……」
「ありがとう。私自身は貴女に何かしたわけではないのですが、私の従兄弟がですね…
…」
誰かの、従兄弟の顔を思い浮かべながら、青年は苦笑する。
「その従兄弟が俺に何かしたの?」
嫌な予感がするが、疑問はなるべく早く解決したいリョーマは話してとばかりに青年
ににじり寄る。
「う〜ん。いいのでしょうか?」
「俺がいいって言ってるからいいの!」
「わかりました。先ずは私の自己紹介ですね。私は佐伯虎次郎といいます。近衛府の中
将という官位を帝より賜っています。そして、件の従兄弟というのは帝の異母弟であり、
現東宮である不二周助。つまり貴女の夫ですよ」
「…………マジ?」
「ええ」
青年佐伯の顔を凝視しながら、少し顔を引き攣らせる。
例えどんなに自身が否定したくても事実は変えられないので、佐伯も苦笑で肯定を返
すしか出来ない。
「アンタも大変だね」
「まあ、慣れれば何とかね。それに俺よりも帝の方が苦労してるよ。眉間のしわがとれ
ないくらい……。ああ、申し訳ありません。無礼なことを」
「別に気にしないっス。敬語は使うのも使われるのも苦手だし、アンタも普通の方がい
いでしょ? さっきの人たちにも普通に喋ってたし、その方がアンタらしい気がする。
だから、俺のことはリョーマでいいっスよ。東宮妃なんて呼ばれたくないっスから!!」
力説するリョーマに佐伯は心の底から思った。
(不二、お前一体何をしたんだ? 彼のことは本気なんだろ? ……いや、本気だから
こそ…か?)
どちらにしても報われていない不二の思いに普段が普段なため、素直に気の毒とは思
えない佐伯だった。そう、本当に気の毒なのは、そんな不二に本気で愛されてしまった
目の前にいるリョーマなのだから。
いつまでもここにいるわけにはいかないため佐伯は取りあえず、ここから近い自分の
屋敷に連れて行くことをリョーマの了承を得てから連れて行くのだった。
「さすがあの馬鹿の従兄弟だけあるっスね」
「仮にも東宮に向かって“馬鹿”って……リョーマ君は怖いもの知らずだね」
「何で? 馬鹿だから馬鹿って言ってるだけじゃん。もうホントサイテーなヤツなんス
から!! 人の気持ちは無視するわ、常識はないし! 嫌だって言ってんのにソレを強
要するし、仕事はまじめにしないし、外に出たいって言ってもダメの一点張り。そのく
せ自分は仕事だとかなんとかで好き勝手に外出してる。すっごいムカツク。アイツのや
ること、なすこと……ううん、存在自体がすでにムカツク!! てゆーか、存在自体が
罪でしかない!! なんであんなのが東宮なんですか? この国潰してもいいんスか?
帝も一体何考えてるんだか……。ああ、他の大臣たち重役にも言えるっスね。これは」
そうとう鬱憤が溜まっていたのか、リョーマの口からは不二と不二を東宮にした関係
者たちに対する不満が勢いよく吐き出された。
「仕方なかったんだよ。帝にはもう一人異母兄弟がいるんだけど、彼もまた問題があっ
てね……」
「なんで、そんな問題ばかりの人物が生まれる家系が帝なんかやってられるんスか?
系統変えた方がきっとこの先の治世を考えると明るいと思うんスけど間違ってます?」
最もな意見だと佐伯も思った。
が、おそらくそれは無理だろう。不二がリョーマを手放すはずがないのだ。もし二人
の仲を裂こう者が現れたら、それこそどんな手を使ってでも阻止するだろう。そのため
には、帝という地位は大きな力になる。リョーマと出会う前であれば、彼は東宮という
地位に何の興味関心も持っていなかった。むしろ勝手に地位に就けられ迷惑していた。
だから、その時であれば東宮の交代なり、系統の交代なり出来たかもしれない。あくま
でももしかしたらの話であるが……。けれど、交代はなく、不二はリョーマを見つけて
しまった。リョーマの言葉が現実になることはほぼ間違いなく“ない”と言えよう。
「リョーマ君運命を潔く受け入れよう」
「嫌っス! 俺はもう東宮御所には、アイツのトコには絶対に戻らない!! 俺はこれ
から本来の姿に戻って、自由気ままな一人旅をするんス! さっきはありがとうござい
ました。じゃあ俺はこれで……」
「あの程度の暴漢も撃退出来ないのにかい?」
「っ!? あれは……」
「あれは?」
「……いつも袖の中に携帯してる守り刀を忘れたから。それがあったら、あんな奴等簡
単に!!」
東宮御所に帰りたくないリョーマは必死に自分は強いのだと訴える。
伝わっているのかいないのか、佐伯は表情を全く変化させることなく冷静にリョーマ
を見つめている。そして、しばらく沈黙が二人の間を支配していたが、佐伯が深く溜め
息をつき、それは破られた。
「……不二はリョーマ君のことを本当に愛しているよ」
「そんなの信じられるわけがないっス!!」
佐伯の言葉は何よりリョーマが聞きたくないこと。
何よりも信じられないこと。
なのでリョーマは即答だった。
「俺は不二とは従兄弟だから小さい頃からあいつを見て、知ってるんだ。君に出会って
不二は変わったよ。人間らしくなったって言えばいいのかな? 表情が豊かになってる
し、君以外に見せる笑顔にもたまにだけど、本当の笑顔が見れるようになった。そんな
不二が君に向ける瞳は本当に優しさに、愛しさに満ち溢れている」
ゆっくりと諭すように、感情の込められた佐伯の言葉はリョーマの胸に衝撃となって
深く沁み込んでいく。けれど、まだ認めたくない思いがリョーマの中に存在しており、
言葉を否定しようとしたその時。
「で、でも……」
「お取り込み中申し訳ございません。中将様、東宮さまがお越しです」
「え!?」
「いいタイミングだね。うん、ここに通してくれて構わないよ。ただし、少しゆっくり
目に」
「!?」
「畏まりました」
東宮の来訪を伝えにきた女房が下がると、リョーマも出て行こうとした。
「どこに行くの?」
「だってアイツが来るんでしょ? 俺はアイツに会いたくないって言ってんじゃん!!
だから出て行くんスよ」
「不二の本音聞きたくない?」
「え?」
「たぶん面白いものが見れるよ。出て行くのはそれからでもいいんじゃないかな? ど
うする?」
聞いてみたい!と思った。
いつもからかうような口調で言ってくるため、きちんと本音を聞いたことがなかった。
だから他人に不二が自分を大事にしていると言われても、信じられないのかもしれない。
「………………一応聞いとくっス」
「ありがとう。じゃあ、あそこの几帳の中に隠れていてね。そして、静かにしているこ
と」
「っス」
こうして二人はめったに見れない不二を見るために待ち伏せするのだった。
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◆◆コメント◆◆
この番外編の本命はサエでした〜♪
彼は絶対幼馴染というより、従兄弟の方が合ってると思うんです!
だって、まとう雰囲気が似てるんですもの!!
(↑管理人の馬鹿で、どうしようもない妄想です……)
本当は登場予定のなかった四人衆。
従者兼幼馴染として登場させてみました(笑)
悩んだのはダビデ。何て言わせたらいいのか悩んだすえ、
友人に電話して、状況説明して、悩ませて決定したのがアレです。
さらっと流して下さい。さらっと……
さて、予定通り進んでますので次でやっと終わります。
長かった。一話完結のはずが何故五話なんでしょう?
短くまとめられない管理人がもの凄く未熟なんですよねぇ(死)
精進したいとは常々思っているのですが
人生そんなに甘くないということですね。
ではでは、次もなるべく早くUP出来ることを祈って
2005.06.16 如月水瀬