平安異聞 第二部2


  



「お取り込み中申し訳ございません」

 桜乃を従えた、不二の女房頭である少納言だった。

「何?」

「帝からのお呼び出しでございます。早急に参内するようにと」

「へぇ〜、手塚が。朝の大事な一時を邪魔してくれるなんて覚悟はできてるのかな?」

 不二の纏うオーラが柔らかなものから真っ黒に変わった瞬間を目の前で目撃してしま

い、思わずリョーマは先ほどまでの勢いはどこへやら、肩をビクッと震わせてしまった。

「大丈夫だよ。すぐに戻ってくるから待っててねvv 少納言仕度を」

「後はお二方がお召しかえなさるだけでございます」

 不二の言葉に一秒も思案することなく、スラスラと答える少納言。彼女は相変わらず

のようだ。

 さっさと用意をすませると、「行ってくるね♪」と少納言たち女房のいる前でリョー

マにキスを送り、清涼殿に参内するのだった。

 その時の不二は何故かオーラは黒いのに楽しそうだった。気付かなかったことにしよ

うとリョーマは心にしっかりと蓋をするのだった。












「さあ、東宮妃様もお召し物をを……」

「ソレやめてっス。次からソレで呼んでも絶対返事しないから」

「では、何と?」

「桜乃と同じ。あと、さ……」

「“様”付けは譲歩して下さいませ。母に知られたら私がお叱りを受けますので。なの

で、これからは“リョーマ様”とお呼びすることでよろしいでしょうか?」

「……わかった。それでいいよ」

 本当は“様”もいらないのだが、先に言われ、また、そのことで少納言が叱られると

いうのであればリョーマが潔く引くしかない。主人である不二のことは気に入らないが、

女房の少納言のことは密かに気に入っているリョーマだった。






(……そういえばアレ確か持ってきてたよな?)

 少納言が用意してくれた本日の袿に袖を通しながらふと思い出した、リョーマにとっ

ては大事なモノ。

(決めた!!)

 着替えを滞りなく済ませた少納言は桜乃以外の女房を連れて部屋を退出した。すると

リョーマは少納言が物音が届かないくらい離れたと推測すると、つい先ほど着替えた袿

を何の躊躇もなくバッと脱ぎだした。

「リョ、リョーマ君!?」

「桜乃、アレ持ってきて」

「……アレって、アレのこと?」

「そうvv」

 近しい、心許す者だからこそ成り立つ会話。

 少々不安そうにしながらも、主人であるリョーマの言葉に従い、アレを取りに桜乃も

部屋を一度退出するのだった。










「どう? おかしくない?」

「ううん、大丈夫だよ……………………けど、本当にいいの?」

「いいに決まってんじゃん。アイツが悪いんだから」

「でも……」

 相手が東宮という主人よりも身分の高い者なため、不安はどうしても拭えない。

「……リョーマ君やっぱり……」

「よし! 準備完了。じゃあ桜乃、少納言が俺のコト聞いてきたら、しばらくの間は何

とか誤魔化しといて。バレるのは少しでも遅い方がいいからね。で、あの馬鹿に何か言

われたら、俺が桜乃に命令したってちゃんと言うこと! でないと桜乃がアイツに怒ら

れるから。俺が帰って来ないってわかったら、桜乃はこんなトコにいても仕方がないか

ら、母さんの屋敷に帰るか、ばーさんのトコに帰るかしたらいいよ。俺はそのままブラ

ブラ一人旅でもするから、気が向かない限り本当に帰るつもりはこれっぽっちもない。

じゃあ、しばらく会えないと思うけど元気でね」

「あっ!? リョーマ君……」

 これからのことを簡単に話すと桜乃の制止の声も聞かず、袿から牛飼い童の着る水干

の衣装に着替えた、つまり男装いや、リョーマの本来の性別は男なので、在るべき姿に

戻った格好で、足取り軽く、東宮御所を未練など欠片もなく出て行ったのだった。

 そう、リョーマが桜乃に持って来させたアレとは、入内の時に密かに持参していた、

リョーマが唯一持っていた男物の衣装だったのである。

 これは何かの時のためにと、母親が一年に一度、成長のことを考慮して自らの手で作

っているもの。それをこんな時のためにと少ない荷物の中に紛れ込ませていたのだった。










 東宮御所を出るまでは顔見知りの者が数人いるため、十分な警戒をしながら忍び足で

なるべく気配を殺していたのだが、東宮御所を出てしまうと心は堂々としていた。けれ

どあまり堂々とするわけにもいかないので、外見だけは少し怯えたように、つまり、迷

子になったどこかの牛飼い童のフリをしていたのである。

 一体どこからこのような知恵を付けたのだろうと疑問が湧くのは当然。だが、解答は

またいつの日にか。





  

next  back  room top

   ◆◆コメント◆◆       まだ、全然終わりません(^_^;)       そして、まだまだ前半です。半分も進んでおりません(死)       一体何話まで続くのでしょうか?       長くなると(なりそうですが……)番外編ではなく、コレを       第二章とさせて頂くことになるかもです……       取りあえずもう少し番外編のままで、頑張って早く終わらせ       るよう頑張りますm(__)m         2005.06.09 如月水瀬