青春探偵事務所 6


  





 カランカランカラン……

 二人のケンカを止めるかのように事務所の扉が勢いよく開かれた。

「こんにちは! 出前持って来ました。河村寿司です」

 河村の元気な声が部屋中に響く。

「あれ? みんなどうしたの?」

 手塚の前で不二とリョーマが言い争っていた。それを遠くから見ていた桃城を捕まえて、

そちらを見ながら聞いてくる。

「なんでも、越前が不二先輩にケンカを売ったみたいです……」

「ふーん。あ、あとで寿司代請求するからね〜」

 そう言って河村は何の躊躇もなく三人の傍に行ってしまった。

「あ! タカさん、危ないっすよ……」

 桃城の声を全く聞いていない。

「やあ、手塚。不二も越前も元気みたいだね」

 この場に合わない河村の挨拶に言い争っていた不二とリョーマ、それに、それを聞かさ

れていた手塚も河村の方を見る。

「何? タカさん、今、僕たち忙しいんだけど……」

 不二の言葉にいつもの河村に対する優しさはない。

「……えっと、神尾君に関する情報を持って来たんだけど……」

「「「!」」」

 寿司を手塚の机の上に置くと河村は小さな紙を不二に渡した。

「な、何が書いてあるんですか?」

 興味津々な顔でリョーマが聞いてくるが、不二は何かを考え込んでいて何も話してくれ

ない。

「不二先輩ってば!!」

「……タカさん、ありがとう」

「情報料はいつもの口座によろしくね〜」

 そう言って河村は去って行った。





「手塚、少し話があるんだけどいいかな?」

「あぁ」

 いつもの笑顔ではなく真面目な不二の表情に手塚は河村が持って来た情報がかなり危険

なものと悟ったようだ。

「……リョーマ君。悪いんだけど、手塚と今後の話がしたいから少し退出してくれないか

な?」

「なんで? この仕事は俺の仕事でもあるんですよ! 俺も一緒に話を聞いてもいいじゃ

ないですか!!」

 突然仕事から外されるかのように出ていけと言われたように感じられリョーマは怒る。

「不二……越前の言うことも一理あると思うが……」

「手塚は黙ってて」

 不二に一喝されて手塚は仕方なく黙った。

「別に君をこの件から外すなんて言ってないよ。ただ少しややこしいことになったから、

手塚と話をするだけだよ」

「っ、だから、それは俺の前でもいいじゃんか!!」

「……越前」

「なんスか!」

 リョーマのそれは、所長に対する返事ではない。

「……所長命令だ。退出しろ」

「所長っ!!」

 探偵は二人一組じゃないといけないと言ったのに、手塚にそんなことを言われ、とうと

うリョーマの瞳から大粒の涙が溢れた。

「!」

「リョーマ君!」

 二人の前でもその涙を隠そうともせず、リョーマはキッと二人を睨みつけた。

「わかりました! ……先輩たちのバカヤロー!!」

 部屋中に響く……いや、外まで聞こえるであろう叫びを残してリョーマは所長室を出て

行った。

「え、越前っ」

 慌ててリョーマのあとを追いかけようとした手塚を引き止めたのは不二だった。

「手塚、今のリョーマ君に何を言っても無駄だよ。それより、これを見て」

 そう言って不二が差し出したのは、先ほど河村が不二に渡した小さな紙だった。そこに

は、一人の男のプロフィールが事細かに書かれてあった。

「! ……不二、これは」

 それを読んだ手塚が驚く。そこに書かれていた男の名は、鳳長太郎という。彼はこの界

隈では有名な『氷帝ホストクラブ』で働いている人物だ。だが、今一番重要なことは、そ

の鳳の外見が、神尾を連れ去った男と酷似しているということだ。

「そう。神尾君は氷帝に連れて行かれたんだと思う」

「跡部のところか……」

 氷帝ホストクラブ……そこは知る人ぞ知る超高級クラブである。だが、その裏では犯罪

紛いのことも行われていると噂される危険な場所だ。

「相手が跡部となると越前には少し荷が重いか?」

「それは大丈夫だと思うけど、潜入捜査はリョーマ君には無理だね」

 あそこはホストクラブだ。潜入するには、ホストとして行かなければならない。まだ幼

さの残るリョーマには無理がある。

「……お前が行くしかあるまい。だが、越前にはどう説明するつもりなんだ?」

 それが今一番難しい問題である。リョーマは二人に対してかなり怒っている。本当のこ

とを言ったら言ったでまた怒るだけのような気もする。

「なんとかするよ」

「当たり前だ!!」





 そんな二人をよそにリョーマは自分の席でなんとか涙を止めようと必死だった。

「あれ〜? おちび、どったの?」

「!」

 一番見られたくなかった人物が目の前にいた。

「きくまるせんぱい……」

「ど、どうしたんだよ〜。大石! おちびがー!!」

 菊丸の服を掴んでリョーマは声を殺して泣いた。泣き顔なんて見られたくないのに、心

配そうな菊丸の顔を見ると耐えられなくなった。

「おちび〜ぃ、不二とケンカしたのかにゃ?」

 リョーマの顔が見えないようにと自分の胸に押しつけるのは男の行動か、菊丸の無意識

か……。なかなか泣き止まないリョーマに菊丸は心底困ってしまい、大石を仰ぎ見る。

「……」

 大石はポケットからハンカチを取り出すとそれを菊丸に渡し、リョーマに気付かれない

ように所長室に足を向けた。





「何だ?」

 珍しくノックもなしに部屋に入ってきた大石に驚きを隠せない。

「ちょっといいか?」

「どうしたの?」

「越前が泣いているんだが、何かあったのか?」

「……」

「……僕が行くよ。今回のこと、大石たちにも説明した方がいいかもしれないよ」

 そう言って不二は所長室を後にした。

「何があったんだ?」

「実は……」















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