青春探偵事務所 3


  





 橘達が帰った後、手塚は事務所に所属している者全員を所長室に集めた。それほど広く

もない部屋に八人集まると余計な身動きは一切出来なかった。

 手塚は全員の顔を見回し、請け負った依頼の内容と現在の状況を説明した。

「早く見つけ出さないとヤバイんじゃないのか、手塚?」

 所属する探偵の中で恐らく、というか絶対、一番まともで常識的な大石が状況の拙さに

指摘する。手塚はそれに頷きで返す。

「本当なら、今回の依頼は大石と菊丸に任せたいところだが……」

「えぇ――――! 手塚ぁ、オレ達今受け持ってる依頼で手一杯だにゃ――――!!」

「……分かっている」

 手塚の言葉に抗議を申し立てたのは、大石とコンビを組んでいる菊丸である。そして、

菊丸が抗議するのは分かっていた手塚だったが、今手のあいている者達と言えば、今回の

依頼を自分の都合で勝手に一度断った不二とリョーマのコンビである。

 リョーマはまだ経験不足の見習いだが、与えられた仕事に対して真剣に取り組み、確実

に力をつけている。だから、問題はない。それどころか皆の手本にしたいくらいだった。

そう、問題なのはリョーマの師匠兼パートナーである不二であった。確かに実力は申し分

なかった。手塚に続き実力はこの事務所のナンバー2。そのことはここにいる全員が納得

している。なのに何が悪いかって、それは性格である。先ほども上記した通り自分勝手で、

何事も世界は自分を中心に回っていると勘違いし、更に手塚が不二に手を焼いている理由

は、不二に魔力が備わっていたからである。そう、不二はある一種人外の者だったのだ。

そのため、誰にも不二に逆らうことが出来ないのである。

 手塚は渋々ながら不二とリョーマの方に身体を向ける。

「……不二、越前。今回の依頼お前達に任せるぞ」

「ハイッ!」

「嫌だよ、面倒臭い」

 手塚の任命に返ってきた二人の返事は綺麗に正反対だった。

 どちらがリョーマで、どちらが不二であるかなど目を閉じていても明らかであろう。手

塚は眉間のシワを二、三本増やし、更に頭を抱える。

「……不二」

 暫く頭を抱えたまま沈黙していた手塚がドスの効いた声で不二を呼ぶ。

「何? 何か言いたいことでもあるわけ?」

 負けじと不二も不機嫌さを多分に含んだ声で、相手の神経を逆なでするような辛辣な言

葉を吐く。

「大有りだ」

 不二から売ったケンカ、それを手塚が何の躊躇もなく買ったため、とうとう冷戦が勃発

してしまった。



 冷戦は時間が経つごとに過激さが急激にエスカレートしていった。

 事務所内は室内だというのにブリザードが吹き荒れ、気温(室温)は氷点下の域に達し

ていた。周りにいる所員達は身の凍る冷気を気にするよりも、ソレの中心にいる現状の原

因である所長と不二の二人のことの方が気になって仕方なかった。

 いつ終わるのかと今か今かと待ってみるが、終わる気配は一向にない。誰か止めろよと

全員が心の中で叫んでいるのを、その全員が知っていた。しかし、その言葉を口にする者

は誰一人としていない。口にしたが最後、自身が哀れな生贄となるのは明白だったのであ

る。

「ねぇ、手塚。いい加減にしてくれない? 僕は忙しいって言ってるでしょ。もしかして

耳が遠くなったの? それとも、ボケが始まって言葉が理解出来なくなった?」

「俺はお前と同じ年齢だ!」

「そうだっけ? 君老けてるからすっかり忘れてたよvv」

 不二の毒舌は最高潮である。手塚は反論を試みるが、全て倍、いや、それ以上となって

返ってき、ダメージをくらうのも手塚だけだった。不二にはバリアーでも張られているの

か何のダメージも受けていない。

 その時、

「所長、俺この依頼やりたいっス! 不二先輩がやらないなら一人でもいいっスから」

 リョーマが手塚に依頼の担当を願い出る。

「探偵は二人一組でないと仕事をさせるわけにはいかん。不二とコンビを解消して誰とコ

ンビを組むつもりだ?」

「桃先輩でいいっス」

 リョーマが先輩を先輩とも思わない発言をした瞬間、名前を呼ばれた桃城は短い人生だ

ったなぁとこれまでの自分の人生を振り返っていた。

「へぇ〜。リョーマ君、僕とコンビ解消して桃なんかと組むんだぁ。僕全然知らなかった

よvv」

 不二はとても綺麗な笑顔だったが、笑みの形をしている瞳は全く笑っていなかった。そ

のうえ、背には黒いオーラをこれでもかというほど背負っていた。

 リョーマは一瞬怯んだが、早く一人前の探偵になりたいがため、どうしてもこの依頼を

やりたかったので、勇気を振り絞って魔王と化している不二に立ち向かうのだった。

「今決めたんだから当たり前でしょ。それに、アンタが仕事やりたくないって言ったんだ

から仕方ないでしょ!!」

「えっ!? 何言ってるのリョーマ君。僕がいつやりたくないなんて言ったの?」

「アンタさっき断ったじゃないっスか!!」

 リョーマが怒鳴った時、所長を含めるその場にいた全員がリョーマと同じツッコミを心

の中で入れた。不二は当然ソレに気付いていたが、取りあえずは放って置いて、後で呪い

でも……と思いながら、リョーマを優先した。

「あのねリョーマ君。僕はやりたくないなんて本当に言ってないよ。僕は面倒臭いから嫌

って言ったのvv というわけで手塚、この依頼僕とリョーマ君が引き受けるから。文句な

いよね?」

 疑問形だが、はっきり言って脅しである。

 それが分かっているから手塚も余計なことは言わず、

「ああ」

 と了承したのだった。













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