青春探偵事務所2 7


  



 次の日、昼近くまで眠っていたリョーマだったが、再び徳川を探すため町に行く。しか

し、昨日同様、徳川を見つけることは出来ない。落胆したリョーマは、疲れをとるため、

小さな公園で休憩することにした。

(一体どこにいるんだよ……)

 時刻は六時。すでに人影はなく、風がブランコを揺らしていた。リョーマは近くの販売

機で買ったファンタを片手にそのブランコに座る。

「どうしたの?」

 リョーマが徳川のことを考えていると、頭上から声が降ってきた。顔を上げるとオレン

ジの髪の青年が心配そうにしていた。

「アンタ誰?」

「俺? 俺は千石っていうただの通りすがりの人間だよ」

 笑顔の似合う男である。ふと、リョーマは誰かの顔を思い出す。しかし、彼の笑顔は作

ったものだが、千石の笑顔はそのままの笑顔だと感じる。

「その通りすがりの人が、俺に何の用?」

「用っていうか、何か落ち込んでいるように見えたから気になってね」

 隣のブランコに座る千石はリョーマの顔を覗き込んでくる。

「見知らぬ相手になら愚痴を言ってもいいんじゃないのかな?」

 千石に言われてリョーマはじっと地面を睨んだ。確かに昨日から、事務所の助けなしで

徳川を探していて見つからない苛立ちでストレスは溜まっていた。この男なら少しぐらい

愚痴を聞いてくれるかもしれないと考えた。

「大切な人を探しているんだ……。けど、見つからないんだよ」

 ポツリポツリとリョーマが話すのを千石は静かに聞いている。そのことで違う大切な人

たちともケンカしたことまで話したところでリョーマは口を閉じた。

「ねぇ、ひょっとして、君、越前リョーマ君って言うんじゃないのかな?」

 千石の言葉にリョーマは顔をあげる。

「……アンタ何者?」

 自分の名前を知っていた千石にリョーマは警戒色をあらわにする。

「コレをある人から預かったんだよ。この辺に越前リョーマって男の子がいるはずだから

探してコレを渡してくれって」

 そう言って千石がポケットから取り出したのは一枚の封筒だった。リョーマは警戒しな

がらもその封筒を受け取る。封筒を開けるとそこには一枚のバラの花びらと手紙が入って

いた。

 手紙の内容は、徳川からのメッセージだった。



 『親愛なるリョーマ君へ 俺からのプレゼントは気に入ってくれたかな?

                    もうすぐ君に会えるから……  徳川』



「これ、どんな人に渡されたの?」

「んー、二十代の男性だったよ。なんか、こう笑顔で表情を隠している感じがしたかな?」

 千石の説明では、それが徳川かどうかは分からない。

「……どこで渡されたの?」

「あぁ、この先にコンビニがあるでしょ。そこの前で声をかけられたんだよ」

 それを聞いた途端、リョーマはそのコンビニに向かう。しかし、思ったとおり、そこに

は徳川はいなかった。

「急にどうしたの? ひょっとして、君の言っていた大切な人って、この手紙の人?」

 リョーマはコクリと頷く。千石が何かを言おうとしたとき、どこからか音が聞こえてく

る。

「ん?」

 千石のケータイのようだ。ボタンを弄っているのを見ると、どうやらメールのようだ。

「ふ〜ん。越前君、コレ」

 千石はケータイをリョーマに渡す。訝しげにケータイを受け取り画面に目をやり目を見

開いた。

「どこにいけばいいの?」

 画面には、『―もし、俺に会いたければ、この男の指示に従ってね』とあった。

「……連れて行ってもいいけど、条件があるんだって、ケータイの電源は切ってだってさ」

 徳川に会うためと、リョーマは躊躇なくケータイの電源を切った。


















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