「はい、青春探偵事務所です」
『あ、越前君? 佐伯だけど』
電話の相手は、数日前に事務所にやってきた佐伯からだった。
「どうしたんスか?」
佐伯と分かった途端、事務所のメンバー内容を気にしているのが気配でひしひしと伝わ
ってくる。
「あ!」
リョーマが止める暇もなく不二がスピーカーボタンを押してしまう。
「やあ、佐伯。何のようなのかな?」
佐伯からの電話で、イコール徳川に関する情報の電話と悟ったのだろう。かなり機嫌の
悪い声である。
「ちょ、ちょっと、不二先輩っ! いきなり何するんですかっ!」
佐伯の耳には、言い争う声が聞こえる。相変わらずの不二の行動に佐伯は笑いを止める
ことができない。
『は、話を進めていいかな?』
「はいっ!」
不二を押さえ込み、リョーマが話す。
『例の徳川さんの情報なんだけど、俺の事務所の奴がそれらしい人物を見たって言ってい
るんだよ』
「本当ですか?」
『俺自身が見たわけじゃないから確信はないんだけど……』
ここ四、五年、全く姿を見せなかった人物である。佐伯自身もこんなに早く徳川が見つ
かるとは思っていなかったのだろう。
『……一応、徳川さんを見たっていう場所の住所教えようか?』
「お願いしますっ!」
「リョーマ君っ!」
不二の静止を無視してリョーマは佐伯から、徳川を見たという住所を書き留める。丁寧
にお礼を言うとリョーマは電話を切った。
「……」
「……」
事務所に沈黙が訪れる。リョーマの手には、大切そうに住所が書かれた手紙が握り締め
られている。
「……所長、探しに行ってもいいですか?」
「……」
「ダメに決まっているでしょ!」
答えがないのが手塚で、止めるのが不二の言葉である。
「不二先輩には聞いてない! 所長!」
「……俺も不二と同感だ。この前の、今日だろ? 怪しすぎる」
「で、でも……」
どうしても徳川に会って話がしたいリョーマは引こうとしない。今、リョーマが一番知
りたいことを徳川だけが知っているのだ。この前、徳川は言った。必ず、リョーマが徳川
の下に行くということを……。
「俺は知らなくちゃいけないんっすよ!」
「どうして、そこまで真剣になるの?」
リョーマの気持ちが分からない不二はイライラする。なぜ徳川をそこまで気にするのか、
リョーマのそれはまるで徳川に恋心を持っているように感じてしまう。
「不二先輩には関係ないっス!」
「……」
リョーマの言葉に不二が表情をなくす。今までリョーマをからかって、怒られたりした
ことはあったが、心配する不二にリョーマがここまで冷たい言葉を発したことはなかった。
「いい加減にしろっ!」
「……っ」
不二ではないような言葉使いにリョーマは肩を大きく揺らす。
「僕は、僕たちは、君が心配なんだよ? どうしてそれが分からないんだ!」
「……先輩たちに心配される必要はありません。これは俺とあの人の問題なんです!」
「分かった。君の好きにすればいいよ!」
そう言うと、リョーマを見ることなく不二は事務所を出て行ってしまった。そんな不二
に、リョーマを始めメンバーもどうすることも出来なかった。不二の傷ついた顔にリョー
マも辛そうな表情になったが、今は不二のことより自分のことしか考えることが出来なか
った。
「すいません。二、三日休ませてもらいます」
「越前っ」
手塚の返事も待たずにリョーマは事務所をあとにした。
佐伯から教えてもらった住所を頼りにそこに行ってみる。すると、そこは人通りの多い
繁華街だった。
(この中にあの人がいるのかな?)
とりあえず、リョーマは繁華街を歩いてみることにする。しかし、人が多すぎて徳川が
いるかはリョーマには分からない。佐伯の情報では、徳川は一人ではなく、二人で歩いて
いたと言っていたが、まず、日にちが経っていることと、徳川本人かの確証がないことが
リョーマを焦らせる。そんなことを考えながら繁華街をくまなくまわっていると、いつの
間にか時刻は夜十時を回っていた。仕方がなくリョーマは一度家に帰ることにした。
「遅かったね」
リョーマが家に帰るとドアの前で不二が待っていた。
「何しているんすか?」
「君を待っていたんだよ」
リョーマについて部屋に上がろうとする。
「何か用っすか?」
「君と話がしたいんだ」
「俺はないっす」
不二を追い出そうとドアを閉めようとするが、不二は足を使い部屋にあがり込む。
「……先輩! ちょ…んむ」
部屋に上がりこむと不二はリョーマの腰に手をまわし引き寄せると嫌がるリョーマに無
理矢理キスをする。驚いて暴れようとする身体を押さえ込み、息継ぎも出来ないくらい深
く唇を重ね合わせる。
「ンぅ……ッ」
苦しさに喘ぐリョーマは呼吸しようと薄く口を開く。その瞬間に不二は口腔に舌をもぐ
り込ませる。
「―ッ、ン……っ」
濡れた感触にリョーマはとっさに不二の舌に歯を立てようとしたが、それは不二の予想
の範疇だったのか、下唇の下の窪みを指で押さえつけ、閉じさせないようにする。そのま
ま、不二はリョーマの身体を地面に横たわらせる。暴れるリョーマを無視して、不二はリ
ョーマの服を脱がそうとした。
「ヤ、ヤダ、ヤダ、ヤダ……っ」
不二の強引な行動にリョーマはぽろぽろと涙を流す。
「なんで? なんで、こんなことするの? 先輩は何がしたいの?」
「……リョーマ君」
リョーマの泣き顔に不二は身体を起こす。リョーマは身体を横たえたまま、静かに涙を
流す。
「ごめん……っ」
それだけ言うと不二はリョーマをそのままに部屋を出て行った。
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