青春探偵事務所2 2


  



 バサッ……。

 耳をつんざく叫び声を聞いて、リョーマはベッドから跳ね起きた。心臓は全力疾走した

かのように早鐘を打っている。

「ゆ、夢?」

 何度も深呼吸をし、身体をおちつけ部屋を見回す。しかし、そこはリョーマの部屋であ

って、あの赤い部屋ではない。

「ホアラ」

 突然、飛び起きたリョーマによってベッドから落とされたカルピンが非難の声を上げる。

「あぁ、カルピン。悪かった。……おはよう」

 再びベッドに上がってきたカルピンを抱きしめ、リョーマは先ほどまでみていた、夢と

いうよりは悪夢の内容を思い出す。

「あれ……夢じゃないんだよな」

 まだピースが足りないが、この夢は現実にあったことだ。

「きり姉ってことは、あの人が徳川さん?」

(……あの時、何があったんだっけ?)

「ミャー!」

 無意識にカルピンを抱く手に力が入ってしまったのか、腕の中でカルピンが暴れる。

「ご、ごめん。……ん?」

 外がやけに明るいと、時計に目をやってリョーマは固まった。

 時計の針はちょうど十時をさしていた。

「ヤ、ヤバイっ」

 事務所への出勤時間は九時である。すでに一時間の遅刻である。所長の怒る顔が目に浮

かび、リョーマは慌てて着替えると、部屋をあとにしようとしたが、それはカルピンによ

って止められた。

「ホアラー」

 出て行こうとするリョーマの足に纏わりつき餌の催促をする。

「……ま、いっか」

 どうせ遅刻だと考えたリョーマは、カルピンと自分の朝食の用意を始める。

 朝食を邪魔されたくないリョーマは、ちゃっかりケータイの電源を切った。







「ちーす」

 リョーマが事務所にやってきたのは十一時。二時間の遅刻である。

「リョーマ君、おはよう」

「あ、おちびがきたー」

「心配したんだぞ」

 中に入ると、不二、菊丸、大石がそれぞれ声をかけてくる。

「越前、ちょっとこっちに来い」

 所長の手塚に呼ばれて、リョーマはしぶしぶ所長室へ行く。

「……何っすか?」

「何ではない! なぜ遅刻した?」

「寝坊っす」

「遅刻するなら、一応、連絡くらいよこせ。特に今はな。ついでに、ケータイの電源も切

るな!」

 手塚が何を言いたいのか分かったリョーマはコクリと頷く。

「……その後、彼から接触はないのか?」

「……ないっす」

「とりあえず、一人で調べようとするな。調べるなら不二と行動しろ」

 仕事上のパートナーの名前を出した途端リョーマは嫌そうな表情をする。

「あの人、やる気ないっすよ」

「……」

 リョーマの言葉に手塚が黙る。確かに不二は、この件……だけではないのだが、特にこ

の件に関しては積極的ではなく、どちらかというと、リョーマの邪魔をしている。

「と、とにかく、情報が入れば、俺か不二に言え。いいな!」

「分かりました」

 しぶしぶ手塚の指示に頷くことで所長室から退出することが出来たリョーマは、所長室

を出た途端に後ろから菊丸に抱きつかれた。

「おちびー、なんで遅刻したの?」

「寝坊っすよ」

 背中にへばりつく菊丸をそのままに、自分の席へと行く。

「おちび、遅刻の回数多いんだから、不二と一緒に暮らしたら?」

「なっ?」

「それ、いいアイデアだね」

 隣の席にいた不二が菊丸の話に乗ってくる。

「いい考えでしょ〜」

 我ながらいいアイデアと、菊丸は自信満々である。

「な、なんで、俺がこんな人と一緒に暮らさなくちゃいけないんっすかーっ!」

「え? だっておちび不二と「僕と付き合ってるでしょ?」」

 不二と菊丸の言葉が見事にハモる。その途端に、リョーマの顔に朱が走る。

「うわっ、おちび、真っ赤だにゃ〜」

「う、うるさいっす」

 可愛い、可愛いと連呼しながら、菊丸はリョーマに頬擦りをする。

「え、英二……」

 一番初めに不二の変化に気付いたのは大石だった。慌てたように菊丸の名前を呼ぶが、

菊丸は気付かない。

「英二……」

「ん? な……ぃ!」

 不二に呼ばれて、そちらを見て固まってしまう。ゆっくりと、右手、左手と、リョーマ

から離す。不二は相変わらず、相手を牽制する極上の笑顔である。もちろん、目以外であ

るが……。

 絶対絶命の菊丸だったが、不二の呪いにでもかかったかのように身体はピクリとも動か

なかった。つまり逃げることも出来なかったのである。













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