暗闇の中に、悲痛な声が聞こえる。
誰の声だろう。
知っている……、大好きな人の声だったような……。
「きり! きり! 目を開けてくれっ!」
はっきりと耳に聞こえてきた声にリョーマは目を開けた。
「っ……な、なに?」
目を開けると、そこは驚くほど鮮明な赤が一面を染めていた。初めは夕日の光かとも思
ったが、窓の向こうからは細い月が見て取れる。
では、この赤は一体なんなのか、とリョーマが目を細めていると、
「きり、お願いだから、目を開けてくれっ!」
その声がした方に目を向けてみると、そこには二人の男女がいた。
(誰だっけ?)
「……ねぇ」
「こないでくれっ」
二人に近寄ろうとしたが、悲痛な男の声にリョーマの足が止まる。よく見ると、男の腕
の中には女性が静かに横たわっていた。
(知っている……。この女性を俺は知っている……!)
「……きり姉?」
思い出した名前を呼んでみるが、きりはぴくりとも動かない。
ふと、握り締めた手が、何かで濡れているのに気付き、目の高さまで持ち上げてみる。
「…………」
ポタ、ポタと、指の隙間から滴り落ちる赤い滴。
それは、部屋一面を染める赤と同じもの。
「 っ!」
それがきりの流した血だと理解した瞬間、リョーマは声にならない叫び声をあげていた。
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