青春探偵事務所 18


  





 あれから十日ほどが過ぎた。

 不二は順調すぎるほど順調に回復していた。リョーマがつきっきりで看病した結果だろ

うか。真実は不二以外知り得ないが……。

 現在一般病棟の個室に移された不二の元に章高医師と一人の女性の看護士が朝の検診に

訪れていた。

「全く不二君の回復力には驚かされるよ。他の先生方からも一体どんな治療をしたんだと

毎日質問攻めだよ」

「企業秘密ですvv」

 リョーマと不二を間近で見ていた章高医師は苦笑するしかなかった。

「残念だよ。そうそう退院が決まったよ」

「いつですか?」

「三日後だよ。だからといって無理は禁物だからね」

「はい」

 不二の言葉を聞くとお大事にと言って看護士とともに病室から出ていった。

 残された不二は綺麗に晴れ渡った空を見つめ何かを考えていた。その顔にはいつもの笑

みはなく、表情は真剣そのものだった。







「どうしたんスか?」

 大事な話があるから……と言われ、ベッドの横にイスを持ってきて座ったリョーマは一

向にその話をしようとしない不二に恐る恐る声をかける。リョーマからすれば、こんなに

深刻な不二に何を言われるのかとビクビクものである。ひょっとしたら、コンビの解消を

言われるのでは?とさえ考えてしまう。

「不二先輩?」

「リョーマ君」

「はい?」

「リョーマ君は僕が撃たれた時何か感じた?」

「え?」

 突然の不二の言葉にリョーマの脳裏にそのシーンが思い出される。











  「やっぱり、君は邪魔な存在だね。君がいる限りリョーマ君は僕の元には来

  てくれそうにないし……」

  「言っておきますけど、リョーマ君が行きたいって言っても、僕は行かせま

  せんから……」

  「不二先輩……」

   不二の言葉にリョーマの顔が薄っすらと赤く染まる。

  「やっぱり、君は殺してしまうしかないみたいだね」

   ガチャリ。

   徳川の指が安全レバーを解除する。

   距離にすると十メートルくらいだろうか、命中する確率は五分五分かもし

  れない。しかし、リョーマの頭の中は真っ白になっていた。

  「ダメーっ!!」

   不二を押し退けてリョーマが不二を庇うように前に出る。

  「!」

  「! リョーマ君っ!!」

   リョーマが不二を庇って前に出た時、既に徳川の指はトリガーを引いてい

  た。

   無音の世界に銃声の反響だけが響く―――











「! ……リョーマ君」

 リョーマの瞳から大粒の涙が溢れポロポロと流れ出す。

「……っ」

 不二はそっとリョーマを抱きしめた。リョーマは抱きしめてきた不二の服をぎゅっと握

り締めながら、止まらない涙を流し続けた。

「ごめんね。……リョーマ君、僕が悪かったから」

「……だっ!」

「何?」

「ヤダった! 先輩がいなくなるなんて考えられなかった!」

 不二はリョーマの目に溜まった涙を唇で吸い取る。

「せんぱい?」

「君が好きだ」

 不二は濡れてキラキラと輝くリョーマの目を見て告白した。

「先輩?」

「君が徳川に連れ去られると思った時、僕は本気であの男を殺そうと思った……」

 不二の言葉にリョーマがはっと顔をあげた。

「僕はリョーマ君が本当に好きなんだよ。今回のことでよく分かったよ」

「先輩……」

「リョーマ君は? リョーマ君は僕のために何度も泣いてくれたけど、僕のことどう思っ

ているのかな?」

 不二に言われ、リョーマは考える。しかし、リョーマは分かっていた。考えなくても答

えが既に出ていることを……。それは不二が目を覚ました時に……、不二が徳川に撃たれ

血を流した時に……、いや、もうずっと前から分かっていたことなのかもしれない。それ

こそ、出会った時から……。感情では分かっていなくても、心はずっと分かっていたのか

もしれない。

「リョーマ君?」

「おれも……」

「ん?」

「俺も不二先輩のこと好きっス」

「……ありがとう」

 不二はこの前リョーマに見せた本当の素の笑顔をリョーマに向けた。











※次回はHシーンが入ります。というか一話分全てその内容です。 隠しにはしませんので、ご自身の判断でどうぞ。 苦手な方は飛ばして頂いても話は繋がりますので、 おもいっきりすっ飛ばして下さい。
next  back  room top