青春探偵事務所 14


  





「くそっ」

 徳川に命じられた男達がリョーマに襲い掛かる。それをなんとかかわしていたリョーマ

だが、だんだんと追い込まれていた。

「リョーマ君、諦めたら? あんなところにいるより僕の傍にいた方がいいよ」

「誰がっ! 俺は絶対に探偵になるんだ!」

「残念……それなら、無理矢理にでも連れて行くから」

「……っ!」

 徳川との会話に気を取られていたリョーマは背後に近付いて来ていた男の気配に気付か

なかった。

 男は徳川のセリフが終わると同時にリョーマを背後から殴りかかった。

 鈍い音がする。

 リョーマは間一髪でそれをかわしたが、代わりに肩を殴られてしまった。

「……っ」

 骨は折れていないようだが、大人が力一杯殴りつけたのだ、痛みでリョーマは動くこと

が出来ない。

「リョーマ君、大丈夫? 今から僕が病院に連れて行ってあげるね」

 徳川の手がリョーマの頬に触れる!という寸前、工場の入り口が勢いよく開いた。







「?」

 ギュッと瞑っていた目をリョーマがそっと開く。

「ふ、不二先輩?」

「リョーマ君からその汚い手をどけてくれませんか?」

「……っ」

 不二のセリフに徳川ではなくリョーマが怯える。今、不二は心の底から怒っていた。リ

ョーマが勝手に跡部を尾行したという事実は知らないが、勝手に一人で行動したこともそ

うだが、徳川がリョーマを狙っていることにそれはもう地球が逃げ出すほど怒りに満ちて

いた。といっても、不二の表情は笑っているのだ。それはもう今までに見たことがないほ

ど、綺麗な顔をしていた。それでも、リョーマがそんな不二の表情に怯えたのは、不二の

目が笑っていないからだ。不二の目は徳川だけを見据えている。

 一歩一歩ゆっくりとリョーマの傍にやって来る。徳川の配下は不二に怯え後ずさる。

「怖いな〜」

 徳川はそう言ってリョーマからそっと離れる。

「君はきっと僕のところに来るよ」

「……っ!」

 リョーマにだけ聞こえるようにそう言うと徳川は一応リョーマから離れる。





「リョーマ君! 怪我はない?」

「先輩……」

「もう大丈夫だからね」

 肩の痛みに耐えながらリョーマが起き上がる。そんなリョーマの姿に不二はギリリと奥

歯を噛み締めた。

 優しい言葉をリョーマに掛けながら不二の視線は徳川から離れない。視線で人が殺せる

なら不二はとっくに徳川を殺しているだろう。

「よくも、僕のリョーマ君に……」

「君が不二周助君だね」

 そう言いながら徳川はポケットの中から小さな黒い物体を取り出す。

「っ!」

 それに驚くリョーマ。しかし、不二の表情は変わらない。予想でもしていたように。

「今そんなもの撃ったら、外で待機している仲間が警察に通報するよ」

 徳川が取り出したのは、掌に収まるほど小さな拳銃だった。しかし、その殺傷能力は高

い。

「それに、そんなところから撃ったら、リョーマ君に当たっちゃうかもしれないよ? そ

れでもいいの?」

「! 先輩」

 不二はリョーマを後ろに隠すように下げると、徳川と同じように懐から黒い拳銃を取り

出し、徳川に照準を合わせる。

「やっぱり、君は邪魔な存在だね。君がいる限りリョーマ君は僕の元には来てくれそうに

ないし……」

「言っておきますけど、リョーマ君が行きたいって言っても、僕は行かせませんから……」

「不二先輩……」

 不二の言葉にリョーマの顔が薄っすらと赤く染まる。

「やっぱり、君は殺してしまうしかないみたいだね」

 ガチャリ。

 徳川の指が安全レバーを解除する。

 距離にすると十メートルくらいだろうか、命中する確率は五分五分かもしれない。しか

し、リョーマの頭の中は真っ白になっていた。

「ダメーっ!!」

 不二を押し退けてリョーマが不二を庇うように前に出る。

「!」

「! リョーマ君っ!!」

 リョーマが不二を庇って前に出た時、既に徳川の指はトリガーを引いていた。







 無音の世界に銃声の反響だけが響く―――


















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