ピーンポーン
玄関のチャイムが鳴り響いた。
大石の伯父さんが対応している声が微かに聞こえてくる。
「お客さんみたいっスね」
「そうだにゃ」
「理由も聞けたことだしそろそろお暇しようか?」
大石の最もな言葉に二人が相槌を打つと三人は立ち上がった。そして、襖を開
けようと手を伸ばした時、襖が自動的に開けられた。そこに立っていた人物を目
にして三人は固唾を飲んで固まった。
「やあ!」
件の人物は三人の反応を特に気にしたふうもなく、マイペースだった。
「い、乾! どうしてここにいるんだ?」
大石は目を白黒させて驚いている。
「じゃあ、ごゆっくり」
甥の反応に通してはいけなかったのだろうかと、少し怪訝な表情を浮かべなが
らも、大石の伯父さんは理由も追究せず、そのまま階段をおりていった。
「伯父さん。ありがとう」
我を取り戻し、きちんとお礼を言うあたりさすが大石である。
「乾さっきの……」
「大石。まずはもっかい座ろーよ」
菊丸は大石の言葉を遮り、座り直すことを勧める。一瞬の間の後、そうだなと
頷き一人増えた四人は畳に座り直した。
「で、何でここに来たってゆーか、来れたんですか?」
座ると同時に今まで黙っていたリョーマが先陣をきった。
「ああ。それは日頃のデータの賜物だよ。特に今回の場合はある種非常事態だっ
たからね。それを考慮すれば大石がドコを選ぶのかは必然的に見えてくるからね」
「ひ、非常事態って……」
「越前が不二とケンカしたことは十分非常事態だろ?」
「何で知ってんスか!?」
リョーマはここが他人の家だということを忘れ大声で叫び、大石と菊丸は両目
をいつになく見開く。それを満足そうに見物しながら乾はどこからともなくデー
タノートを取り出し、何かを書き込みながら当然のように次のような言葉を返し
た。
「俺の情報を甘く見たら困るよ。これくらいのことは知ってて当然なんだ」
そう言うと奇妙な笑みを浮かべながら、更にノートに何かを付け加えている。
((普通は知ってるハズないだろ!!))
リョーマと菊丸の心の声が重なり、鋭いツッコミが入る。但し、もう一度言っ
ておくが心の中でのみであるが……
「い、乾。乾がここに来た理由は分かったよ。うん。でも、どうして俺の伯父さ
んの家まで知ってるんだ。章高おじさんのことは知っていても驚きはしないが、
ココのことは今まで一度たりとも話したことはないはずだけど……」
大石は顔を少し青くし、口元を少し引き攣らせながら、化け物や怪物でも見る
ような少し怯えの入り混じった瞳で問いかける。リョーマと菊丸の心の叫びに同
調しなかった理由は、ただ単に怯えていたからであった。
「これもデータの賜物だよ。但し、出所は教えることは出来ないよ。企業秘密だ
からね」
乾以外の三人は、どこまで自分の秘密・家族のことなどをこの男に知られてい
るのだろうかと、とても不安になった。この男相手に隠しごとなど出来るのだろ
うか? 否、出来る人物がいるとすれば、リョーマの恋人であり、表では青学テ
ニス部bQの天才と裏ではどこかの国の魔王と呼ばれている不二周助のみであろ
うことを三人はしっかりと悟った。
実際にデータマンである乾は魔王不二から確実なデータはほんの僅かしか取れ
ていなかった。だから今回リョーマと不二がケンカをしたという情報を手に入れ
た時は、少しは不二のデータが手に入るかもと内心心躍らせながらここにやって
来たのだった。
しかし、それは果たすことなく終わるのだった。
「ねぇ。俺、お腹すいたっス……。不二先輩が奢ってくれるはずだったのに、ケ
ンカしたからまだ食べてない……」
大石の服の裾をクイクイと引っ張りながら空腹を訴えると同時に、リョーマの
お腹もグゥゥゥ―――と何かを食べさせろと結構な音量で訴える。
大石たちは一瞬呆然とし、次にはその場は笑いに包まれる。大石と乾は小さく
クスッと笑い、菊丸に至ってはお腹を抱えて笑っている。それによりリョーマは
再び機嫌を損ねるが、乾の言葉により菊丸を無視するということで自身の内で決
着をつける。
「そうだね。そろそろお昼だし皆で河村の家にでも行くか?」
「ああ。久しぶりに隆さんちで食事というのもいいかもな」
大石が賛同したことで提案は決定事項となり、菊丸を除く三人は早々と用意と
いうか、その場に立ち上がり部屋から退出しようとする。
菊丸はスタートが3歩ほど遅れたため、結果取り残されたものとなってしまっ
た。三人が階段を下りた頃に部屋から飛び出し、他人の家だということも忘れ、
大声で叫んでしまった。
「オレを置いていかないでよぉ――!! 皆ひどいにゃ〜〜」
ほとんど泣きながら、ダダダダダ―――ッと騒音を上げて階段を一気に駆け下
りた。
リョーマたちは呆れ顔で玄関で既に靴を履いて待っていた。そして、三人の代
表としてリョーマが吐いた一言は、
「菊丸先輩サイテー。ここ他人の家ですよ。それも今日初めて来た」
途轍もなく冷たく、菊丸の胸に深く深く突き刺さった。
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◆◆コメント◆◆
というわけで、今回は乾でした〜♪
彼のデータの情報源はどこにあるんでしょうか?
全く以って謎です。
次の人物はもうお分かりですね。
そう、寿司屋の息子です。(←あえて名前は伏せます/笑)
ではでは、また続きでお会いしましょう♪
2005.08.02 如月水瀬