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 十分後、三人は大きな邸宅の前にいた。

「お、大石?」

 目を最大限に丸くして、菊丸が大石に「ここどこ?」と尋ねる。

「親戚の家だよ。そんなに離れていないから交流は深いよ。少しの間一部屋くら

い貸してくれるだろう。ほら英二、グズグズしてないで入った。入った」

 菊丸を急かすと、勝手知ったる我が家の如く、大石は門を開けて玄関の前まで

サクサクと歩いていった。

 さすがにインターホンを押さずに入るという芸当はしなかったが、それに近い

ことをしているということから、目に見えないが内面では大石もしっかり焦って

いることが窺える。



「こんにちは伯父さん。突然だけど少しの間お邪魔するけどいいよね」

 挨拶もおざなりに、菊丸を促して二階の和室を陣取った。

「で?」

 畳に座り込むなり大石は状況説明を促した。

「う〜ん。オレもよく分かんないんだけど、たぶん不二とケンカしたんだと思う

にゃ。オレが見つけた時おちび一人で怒ってたし。んで、オレが声かけたら急に

抱きついてきて、そのまま泣き出しちゃって今に至るとゆーわけだにゃ」

「じゃあ原因は英二にも分からないんだな?」

 大石の言葉に菊丸はコクコクと首を縦に振る。

 二人の視線は自然といまだ菊丸の胸に顔を埋めているリョーマに注がれる。原

因の答えを求めるために……







 暫くの沈黙の後、やっとリョーマは菊丸から離れ顔を上げた。長い時間泣き続

けていたため、瞳はウサギのように真っ赤になっていた。それはリョーマの魅力

を更に増長させており、二人はリョーマの顔を目にした瞬間頬を赤らめ、茫然自

失状態に陥った。

 二人の思考は次の通りである。



(おちび可愛いにゃ〜vv やっぱ不二なんかにはものすっごく勿体ないにゃ!

ギュッってしたら怒るかな? 怒るよなぁ〜絶対。おちびだから……でも、やり

たい!! 今すぐギュッってしたいにゃ〜〜〜!!!)



(え、越前。それは犯罪だろ。いくらなんでも……)



 大石は器用に耳だけを真っ赤に染めリョーマから視線を外す。

 リョーマは二人が自分を見て何を考えているかなど全く気にすることもなく、

話を聞いてくれるという二人に何があったのかを偽りなく全て話した。







「ねっ。周助が悪いでしょ?」

 どのようにすれば一番効果的かということを心得たように、リョーマは顔を傾

げて聞いてくる。というより、その行為は二人にも同意して欲しいというものに

他ならなかった。意図的かどうかは別として。

 大石はどう発言したら良いのか分からず困惑の表情を浮かべる。菊丸は咄嗟に

というか、口が勝手に(リョーマに取り入るためともいう)答えていた。

「それは不二が悪い! おちびが怒るのトーゼンだにゃ」

「でしょ?」

「うんうん」

「……っ」

 リョーマと菊丸の会話を聞いていると大石の胃は自然と悲鳴をあげだした。

(ふ、不二が聞いていたらどうするんだ英二! 絶対何かされるぞ!! 青学の

全国優勝がなくなってしまうじゃないか!!!)

 何気に黒い大石がここに存在していた。

 青学テニス部の母たる心優しく心配性、且つ、苦労性な彼は一体全体どこにい

ってしまったのだろうか。やはり彼も曲者揃いのテニス部でレギュラーととるあ

たり、ただ人ではなかったということだろうか。

 大石が黒く変貌(中身のみ)している間もリョーマと菊丸は不二を非難し続け

ていた。

「菊丸先輩も大石先輩もよくあんな人の親友なんかやってられますね。俺ソコだ

けは尊敬します。あっ、大石先輩は普段から尊敬してるっス」

「おちび酷いにゃ〜〜。おちびはオレよりも大石の方が好きなの?」

「なっ、何言ってんスか! 俺そんなこと一っ言も言ってないじゃんか!!」

 菊丸の言葉にリョーマは顔を真っ赤にして反応を返す。

 菊丸はというと、

「うにゃ〜。やっぱおちび可愛過ぎだにゃ〜vv」

 叫ぶと同時にリョーマに抱きつき、リョーマから拳骨を一つ貰う。嫌いという

言葉と共に。

「うにゅ〜」

 地獄の底までとはいかないだろうが、太平洋の底くらいまでは確実に沈んだ声

で菊丸はリョーマになんとか許しを請おうとしているが、リョーマは全く耳を貸

さず大石の背中に隠れ、菊丸を大いに警戒していた。

「英二。今のはお前が悪いよ」

 苦笑しながらリョーマの援護をすると菊丸は益々落ち込んでいく。

「大石まで〜」

 半分泣きそうになりながら、大石に取り縋っている。

 確かに今現在大石にはブラックが降臨していた。しかし、常日頃青学テニス部

の母と、部員全員から(全校生徒からかもしれないが……)認識され、多少なり

とも自覚している彼は菊丸に助け舟を出した。

「越前。もう許してやってくれないかな? さすがに打たれ強い英二でも、これ

以上やったら本当に泣きそうだから」

 大石の言葉に少しだけ警戒を緩めて菊丸を見やる。そうすると菊丸もおずおず

と視線を合わせた。その目は「お願いだから許してにゃ〜」と痛切に語っていた。



「…………もうしないっスか?」

「しない! しないにゃ!!」

 リョーマが返答に費やした時間から信じて貰えていないことを確かに感じ取っ

た菊丸は、信じて貰うために間髪入れず必死で言葉を紡ぐ。

「……じゃあ、許してあげます」

 微妙な間が、まだ完全にリョーマが菊丸を信じきっていない証拠だったが、菊

丸は嬉しさのあまりリョーマに抱きついた。そして、当然その行為は再びリョー

マの機嫌を損ね、事態は振り出しに戻るのである。

 全く学習能力のない菊丸であった。

 コレを5度ほど繰り返して菊丸はやっと学習能力をほんの少し、雀の涙ほどで

はあるが身に付け、それの代償としてリョーマから完全に信用を失ったのであっ

た。



 自業自得といえば自業自得なのだが、あまりにも菊丸は哀れであった。


















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   ◆◆コメント◆◆       スミマセン。ウソついちゃいました(死)       管理人の頭の中では出てくると思っていたのですが、       打ち込んでみるとそこまで辿りつけませんでした。       今回は、菊の災難が中心でした。       そして大石が何気にブラック入ってます(笑)       これは某友人に洗脳された結果です。       管理人の中では大石は白だったはずなのに……       でも、管理人の大石は不二には勝てません。       某友人の大石は不二なんか目じゃありません。世界最強です!       宇宙最強とも言われています……       次こそは誰かが出てきます♪       一体誰でしょうか?       お楽しみにvv         2005.07.24 如月水瀬