「っ…しゅ…すけのバカァ……っく」
リョーマは不二を罵りながら泣いていた。公共の場であることなど構わず泣き
ながら歩いていた。そのため、リョーマが歩いた後には地面に涙の痕がポトリ、
ポトリとできている。
不二を置いてきたのは良かったのだが、不二の側を離れることが最優先事項と
され、脇目も振らずただ一目散に全速力で走ったため、今自分がどこにいるのか
分からなくなってしまったのである。世間で言うところの迷子であった。
誰かに駅までの道を聞けば済むことなのだが、如何せんプライドの高いリョー
マである。中学生である自分が迷子であると知られるのが嫌だったのである。そ
れも全く見ず知らずの他人でさえも。
誰か知っている人はいないかと涙を溜めた瞳で周りを見渡すと、下心のありそ
うな輩のみが近付いてきて、そのたびにリョーマは「近寄んな!」ときつい眼差
しで睨み、追っ払っていた。
「……っぜん…ぶ。全部周助のせいなんだからな!!」
当の本人はいないのに、リョーマは自分にも原因があるだろうに(恐らく……)
全ての罪(?)を不二に擦り付けていた。
「バカバカバカバカバカ―――!! なんで、なんで探しに来ないんだよー。周
助のバカ!!」
擦り付けるだけには止まらず、見事な八つ当たりに発展している。
「おち……び?」
「…………えっ?」
聞いたことのある声が後方から聞こえ、リョーマは不二に対する八つ当たりと
も言う罵りを止めて振り返った。
そこにいたのは部活の先輩である菊丸英二であった。
「菊…丸……先輩? なんでここにいるの?」
つい先ほどまで泣いていたため、まだ多少瞳は涙で潤んでいる。元々青学レギ
ュラー全員がノックアウトされたほど可愛かったのだが、涙のオプションが付加
されて更に可愛さが増し、犯罪的なモノになっている。
菊丸は本能に従い今すぐリョーマに抱きつきたかったが、持てる限りの理性を
駆使して思い留まった。
「おちびこそどうしてこんなトコに一人でいるんだにゃ? それに泣いてんじゃ
んか。もしかして不二に何かされたのかにゃ?」
心配の色を浮かべた顔でリョーマの顔を覗き込む。
「どうしたのエージ?」
菊丸と一緒にいたらしい女性がなかなか戻ってこないため声をかけてきた。
「ねーちゃんごめん! オレ後から帰るから先帰ってて!!」
姉に断りを入れると菊丸はリョーマに向き直って、再度何があったのか尋ねた。
「おちび?」
その声はいつのもふざけている感じのものとは全く異なり、自分のことを真剣
に心配してくれているのが手に取るように分かった。その優しさ、温かさが心に
沁みてリョーマは止まりかけていた涙をまた溢れさせた。
「わっ、わっ。どーしたんだよぉおちびぃ? オレ何か悪いコト言った? 謝る
から泣くなよ。ごめんな、おちびぃ」
自分の言がリョーマの気に障ったと勘違いし、菊丸は慌てて謝った。しかし、
リョーマは泣き止むどころか更に激しく泣き始めた。そして、とうとう菊丸に泣
きながら抱きついてしまった。
菊丸はすぐに引き剥がそうと思った。いくら大好きな大好きなリョーマが、自
分から抱きついてくれたという一生に一度あるかどうか分からないという美味し
い状況であるが、今の状況を一応リョーマの恋人(不本意ながら)であるクラス
メートであり部活の仲間の不二周助に見られたりすれば、明日の朝日を無事に拝
めるかどうかということになるのは100%間違いなかった。だから、菊丸は咄嗟
に引き剥がそうと思ったのだったが、自分に必死にしがみついて、声を殺そうと
もしないで、往来で大泣きしているリョーマを見るとそんなことはできるはずも
なかった。
さすがにここでこの状態のままだと人目につき過ぎる。否、既に注目の的なの
で、菊丸はまずこの場所から離れることにした。
依然としてリョーマは泣き続けているため、菊丸はリョーマを抱えて移動する
こととなった。こんな姿を不二に見られれば、更に酷い目に合わされるだろうこ
とは分かっていたが、菊丸の頭では他に良い方法が思い付かなかった。だから、
コレは仕方ないんだからにゃ!と不二に心の中で言い訳をしながらも、不二と遭
遇しませんようにと神様(?)に必死で祈っていた。
リョーマを抱えたまま、何処か良い所がないかキョロキョロと辺りを見回しな
がら足早に歩いている菊丸。今は冬真っ只中といえども、いくら小さくても中学
生の男の子を抱えているため、額には少量の汗が光っている。
リョーマはそんな菊丸の様子に全く気付くふうもなく、相変わらず菊丸の胸に
顔を埋めて泣いている。但し、今は声を殺しているが。そして、いくら歩いても
なかなか良い所が見つからない菊丸は焦りだした。じたばたとするだけで足はそ
の場で止まってしまっていた。
「う〜。何かにゃいか? 何処か良い場所……。こーゆー時くらい少しぐらい働
いてくれたっていいだろぉーがオレの頭!!」
焦りが頂点に達したらしく、パニック状態に陥っている。
「え、英二……なのか?」
「うにゃ?」
菊丸が振り返るとそこには菊丸のパートナーであり、青学テニス部の副部長で
あり、おそらく部内随一の常識人であろう大石秀一郎が困惑した状態で立ってい
た。
「お、お、お、お、大石ぃ――――♪」
「え、英二。声が大きい」
「あっごめんにゃ。でもさっすが大石だね。伊達にオレとゴールデンコンビ組ん
でないにゃ♪」
「は?」
脈絡のないことを言われて、さすがの大石でも菊丸が何を言いたいのか理解す
ることができなかった。そのうえよく見ると菊丸は誰かを抱えていた。
顔を見なくても見間違うはずなどなかった。その人物は青学期待のルーキーで
あり、大石も密かに(?)想いを寄せるリョーマだったのだから。
「英二。何があったのか最初から説明してくれないか? お前の腕の中にいるの
は越前だろ?」
「うん、そーだにゃ。詳しいことは後で説明するから、今は移動。移動するの!
おちびを落ち着かせないといけないから。どっか良いトコないかにゃ、大石ぃ?」
さっきからずっと菊丸の胸に顔を埋めているリョーマに、大石は泣いているの
だろうと粗方の予想はついていたが、原因が分からなかったため、菊丸に問いた
だしていた。
返事を聞くと大石は頭をフル稼働させて最良の場所を弾き出した。
「英二こっち」
菊丸は一切疑いを持たず、黙って大石の後ろについて歩きだした。
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◆◆コメント◆◆
最初は菊でした♪
そしてもれなくついてくるゴールデンコンビの片割れ大石♪
今回菊はない頭を使用してみたのですが、やはり玉砕(笑)
そこに颯爽と大石が登場し、いいとこ取り?
大石が二人を連れて行った場所は……
まあ、簡単です。すぐに予想がつくでしょう。
次も誰かが出てきます♪
一体誰でしょうか?
お楽しみにvv
2005.07.19 如月水瀬