4 説明書を読んでまず思ったことは、数多の高ランク任務をこなしてきた自分には特別どうといったことのない任務だということだった。 内容は、とある小国へ赴き、火影の文書と引き換えに禁術の書を受け取り里へ持ち帰ること。書は里で処分されることになっているという。 「これってそんなに難しい任務ですかね、イルカ先生?」 説明書を読む限り、Aランクと言うまでもないような気がする。わざわざ自分が呼ばれ、ツーマンセルを組むまでもないだろう。 カカシの苛立ちと不審に気づいたのだろう。イルカは困った顔をした。 「あれ、火影様からお聞きになりませんでしたか?説明書には記載されていないんですが、どうも各里の抜け忍が集まって俺たちが持ち帰る禁術の書を奪おうとしているみたいなんですよ。 たいした輩がいるとは聞いていませんが…その。」 「うちの里の抜け忍がいたら始末しろと?」 無言で頷くイルカを、カカシは曝している片目を眇めた。少しの苛立ちを感じながら。 (本当に甘い人だ。) こんなに忍びらしくない人をカカシは見たことがなかった。内勤で、さまざまな人に笑顔を振りまくイルカ。まさか任務を共にするなど考えたこともなかった。 それでも、自分の隣で無言で歩く今のイルカはいつものイルカとはまったく異なって見える。 隣に並ぶのはナルトたちやアカデミー生に対して快活に笑う彼ではなく、物静かな中忍だった。 「まあ、そういう事なら仕方なーいね。三代目もホント狸だよ。」 茶化したように言うと、イルカは渋い顔をしたが、反論はしなかった。 そう、イルカも気になっていたのだ。どうして火影は自分に普通中忍が就かないような任務を与えたのか。それもカカシの補助として。 しかも火影は何かを隠している。 (だけど、いつもの狡猾さが無かったような気がする…) 幼くして両親を喪ったイルカは火影の世話になることが多かった。そしてその過程で、敬愛する里長がとんでもなく謀略に長けていることを悟った。 そして幼かったがゆえにイルカは火影に言いくるめられて、さまざまなすべを仕込まれたのだった。 里に思いをはせ、イルカは無意識に呟いていた。 「抜け忍が木の葉の手の者じゃないといいんですけど…」 呟きを耳にしたカカシは聞こえないようにため息をつく。彼は静かに呆れていた。 (本当にオレとは正反対だな。ま、気持ちはわからなくもないけど。) 誰だって見知ったかつての同胞を殺すのは嫌だろう。さっさと結論付け、カカシは早く任務を終わらせたいといわんばかりに歩みを速めた。 カカシがイルカの呟きの本当の意味を知るのは、後のこととなる。 |