7 「……生きていたんですか、彼方さん。」 消え入るようなイルカの声は、ひどく動揺していた。その声に惹かれるように影は二人に近づいてくる。 そしてはっきりとした人物の輪郭をとり始めた。それは一人の男の姿だった。 長くまっすぐな髪は、黒に近い濃灰色。イルカとカカシを見つめる瞳は、冷たさを含む氷緑色をしている。 カカシよりやや高く、均整の取れた体つきをしており、その容貌は整ってはいるが冷徹そうな雰囲気を纏っていた。 年齢は三十後半といったところか。 カカシは、内心で首を傾げた。…どこかで見たことのある顔だ。だが、直接は関わったことがないのだろう。 男の名前にも顔にも階級にも記憶がなかった。しかし、纏うチャクラも殺気も、半端ではない迫力を伴っていた。 間違いない。抜け忍集団のまとめ役で、指揮をしていた人物だ。 (…上忍並みか…) 三代目の予感は当たったか、とぼやきを一つこぼして、カカシはイルカの様子を窺う。 「イルカ先生、大丈夫ですか?」 足、引っ張んないでください、と小さな声で咎めれば、イルカは我に返ったような表情で、すみません、と小さく詫びて クナイを強く握りこんだ。 「…いきますよ。」 様子見までに、地面を強く蹴りこんで男に襲いかかる。カカシが前方から切り込めば、背後からイルカが男めがけて クナイを振りかざした。 ――だが、カカシのクナイの切っ先が、男の首を切り裂こうとした瞬間に男の姿が消えた。 (かわされたか?) カカシは飛びすさり、敵からの反撃に備えて体勢を整える。 だが敵は反撃よりも、逃亡に重きを置いたようだった。カカシの刃をかわしたまま、イルカの背後へ身をひねり、 空を切って遠くに降り立つ。その際にイルカに向けて、面白がるような口調で語りかけた。 「…髪、切ったのか。」 その言葉に、イルカの背が震えた。激情のままに、遠くへ降り立った男を見据えて言葉を放つ。 「あなたには、関係ない。」 「…まだ、続けているのか。哀れなことだ。」 カカシから放たれるクナイや手裏剣を男は全て跳ね返し、声のトーンが上がったイルカの様子を嘲笑するかのように、 男は一言残して消えた。 男が消えた後の戦場には静かな沈黙が落ちた。その沈黙を破ったのは、苛立ちを隠しきれないカカシの声だった。 「とりあえず、あんたに聞きたい事がたくさんあります。」 俯くイルカは無言で頭を下げる。その仕草に更にカカシの苛立ちは募った。…何を隠しているのか。あの男とイルカとの 関係は分からないが、一人だけ蚊帳の外という状況は腹立たしい。 口を開こうとしたイルカは、小さな気配に気づいて、そちらを向いた。カカシもそちらを振り向く。二人の目が捕らえたのは、 茂みの奥に隠れていたらしい怯えきった小さな少女の姿だった。 |