8 カカシとイルカの視線の先には、茂みの中に隠れていたらしい怯えきった少女の姿があった。 (生き残りがいたとは気づかなかったな…) 戦闘に集中しすぎて、生き残りがいるとは考えもしなかった。他の気配は全くない。生き残ったのは この少女だけだったようだ。カカシがゆっくりと近づくと、少女は小さく悲鳴を上げた。だが、 腰が抜けているのか、地面にへたり込んだまま動こうとしない。 カカシは静かに少女の頭に手を伸ばした。それは慰めるためなどではなく… 「…苦しまないように、楽にしてあげる。」 突然、カカシは突き飛ばされた。すぐに体勢を整えると、突き飛ばした本人を睨みつける。視線の先にいたのはイルカ だった。イルカはカカシには目もくれず、術を発動させ、少女を眠らせる。印の組み方からカカシは、イルカが忘却術 を少女にかけたのだろうと推察した。 「…イルカ先生、どういうつもりですか?」 「殺す必要はないでしょう?この子は何も悪くない。」 「ただ一人生き残ってどうするんです?たとえ村を襲われた当時の記憶がなくても、両親や村人が殺されたことは 惨状を見れば一目瞭然。もし山賊にでも捕まれば、間違いなく売り飛ばされるでしょう。」 的確で冷静なカカシの指摘に、イルカは唇をかみ締めた。…おそらく、彼の指摘は正しい。それでも自分はそれを許せない。 甘いことは重々承知している。 「それでも、死ねば全てが終わりです。」 村の外れの茂みに少女を寝かせ、探し出してきた布をかけてやっているイルカを、カカシは苛々と見つめた。 同じ忍びでも、自分と全く異なるイルカの考え方は、カカシにとっては内勤の甘さにしか映らない。 (忍びとしての矜持をへし折ってやりたい…) 決して憎んでいるわけではないが、自分がそこまでイルカに反発することにカカシは戸惑った。もしかしたら、戦闘後で 気が立っているのかもしれない。そんなことを頭の片隅でぼんやり考えて、カカシは自分が思いついたことに唇をゆがめた。 音を立てずにイルカの隣に立つと、イルカの肩が僅かに強張った。少し緊張した面持ちのイルカを見つめ、カカシはうっそりと呟いた。 「イルカ先生は誰にでも優しいですね。」 「…な…?」 「そのついでにオレにも優しくして?」 オレの無聊を慰めてよ。そう囁いて、血のこびりついた指をイルカの唇に這わせると、イルカは逃れようと必死で身をよじった。 「お…お断りしま…」 「残念だけど、あんたに選択権はないよ。上官命令違反、何回したと思ってんの?」 残酷なまでに言い放つと、イルカの表情は絶望に強張り、僅かに開いた唇がわなないた。 ああ、あんたのそんな顔が見たかったんだ。 |