6 異臭の元へ辿り着いた二人は声も無く立ち尽くした。 異臭の原因は、建物が焼ける臭い、そして人の焼ける臭いだった。犠牲になったのは地図にも載らないような、村ともいえない小さな村。 それゆえにカカシもイルカも気にも留めていなかった。だからこそ抜け忍たちに都合が良かったのだろう。所々には 凶刃に掛かった村人の変わり果てた姿が転がっている。 「…ひどい…」 呆然と呟いたイルカは久しぶりに腹の底から怒りがたぎってくるのを感じた。隣に立つカカシもひんやりとした怒りのチャクラを放出している。 瞬間、カカシの腕がクナイを放つ。無駄のない弾道を描いて飛んだそれは、後ろから二人を襲おうとしていた二人の忍びの眉間に突き刺さった。 「よくもこんな悪趣味な罠を仕掛けてくれたよね。後悔させてやるよ。」 カカシが言い捨てたのと同時に、数人の忍びが現れた。イルカも敵の出現と同時にクナイを閃かせる。 「三代目、帰ったらボーナス要求しますからね…」 恨めしそうに呟いてイルカは、日常から戦闘状態へ思考を切り替えた。 (なるほどAランクねえ…) カカシは、覆面の下でむう、と顔を顰めた。その瞬間に飛んできたクナイをすべて叩き落し、相手に向かって土遁で攻撃する。地に倒れ、ピクリ とも動かなくなった敵を一瞥すると、辺りに倒れている自分が倒した敵の数を確認する。思った以上に敵の数は多かった。そして… (よく統率されている) 部隊長らしき人物は見当たらないが、向かってきた敵の攻撃は力任せの攻撃というよりは連携を組んだ攻撃方法だった。 軽くチャクラの質を変えると、イルカがカカシの方を向いた。『イルカ先生』と唇を動かすとイルカは音もなくカカシの側に移動した。 「どうも指揮役の忍びが他にいるみたいですね。」 カカシの言葉にイルカは無言で頷いた。統率された抜け忍たちの動きを見ると自明だろう。 「…どうしますか?泳がせますか?」 「うーん、一人を確保してそいつに吐かせましょう。残りの敵は処分しておきますか。」 すでに敵は大半が倒されている。イルカが目ぼしい奴を昏倒させる間に、カカシは残りの敵を倒した。 無駄のない攻撃はさすがというべきか。 ――ただ一人残った敵は、指揮官などいないと言い募った。 「そんな人物などいない!俺たちはただ禁術の書を奪えと命じられただけだ。」 その敵忍を眺めているカカシの右目がすっと細められた。指揮官はいないが、書を奪えと命じた人物は存在するという。 それは、指揮官のほうが雇い主よりも、敵忍にとって重要な位置を占めているということ。 「やっぱり、吐いてもらおうか。オレはそんなに優しくないよ。」 ――隣に控えている中忍とは違う。 ずらしていた額宛から、真紅の左目が覗いた。――国内外に知られる写輪眼だ。その瞳を見た忍びは、自分がどんな位置にいるのか やっと悟ったようだった。醜くも、軽々しく雇い主の名を吐く。そして震えながらも指揮官の名まで吐こうとした時だった。 「ぐっ!」 悲鳴ともうめき声とも付かないくぐもった声を上げて、敵の忍びは倒れ伏した。即死だったのか絶命している。 その首には一本のクナイが貫通していた。 「…どういうことだ?」 思わず声を上げたカカシは、クナイの飛んできた方向を凝視した。機密を漏らそうとして一瞬にして絶命した忍び。 そして防ぎようがなかったクナイ。表すところは… 「――指揮官のお出ましか。」 焼け落ちてしまった小屋の後ろから、ゆらりと影が姿を現した。いつのまにか辺りは薄暗く色づき始めていた。 影と敵と認識したカカシは戦闘態勢に入る。指揮官つまり抜け忍のトップさえ倒せば、任務は終わりということになる。だが、隣にいるイルカの 様子がおかしいことに気づき、カカシは声を掛けた。 「…イルカ先生?」 クナイは手にしているものの、立ったまま微動だにしないイルカは、消え入るような声で呟いた。 「……生きていたんですか、彼方さん。」 その言葉と同時に影が笑ったような気がした。 |