――戦は激しさを増していた。 情勢は木の葉を雇った大名の方へ傾き始め、城から打って出る軍勢は死に物狂いで攻めてくる有様だった。 だから余計にタチが悪いともいえる。 カカシは城からやや離れた木立の中で、城から出てきた忍びと交戦していた。連れていた部下の中忍をアスマ たちへの伝令に向かわせたため、状況はカカシに不利だった。それでも写輪眼を使用し、敵に幻術を掛け、 混乱に乗じてクナイで始末する。最後の一人の首にクナイを突き刺し、地面に転がすと辺りはそれまでの喧騒が 嘘のように静まり返った。カカシには返り血一つついていなかった。しかし連日の戦いでチャクラを消耗して いるためかカカシは軽い眩暈を覚え、近くの木にもたれるとズルズルと座り込んだ。どうやらチャクラ切れを 起こしているようだ。 「…疲れた。」 (…イルカ先生に会いたいなあ) もう二ヶ月も会っていない。きっと心配していることだろう。 ――戦場というすさんだ場所にいても、思い出すと心が温かくなる稀有な存在。イルカを心から愛しく思う。 (それでも…帰れないかも) 倒した敵の忍びの残党がこちらに向かってくる気配がする。チャクラ切れを起こしている今見つかるとおそらく 勝ち目はない。そう思いながらクナイを片手に握り、体勢を整えようとしたとき、異変が起きた。 敵の気配が消えていくのだ。敵とは別のカカシの知らないチャクラの動きがある。そのチャクラの持ち主が敵を 倒しているらしい。段々とその気配が近づいてくる。そしてそのチャクラを纏った人物の発した言葉にカカシの 思考は固まった。 「大丈夫ですか、カカシさん。」 「オレにもお迎えというものがきたのかな?それとも敵の幻術にかかってるとか。」 「…そんな訳ないでしょう。正真正銘本物ですよ。」 呆れたように苦笑するイルカからは返り血こそ浴びていないものの血の臭いがした。飲んでくださいと言われて 水ごとチャクラ回復用の兵糧丸を摂取する。その間にイルカは自分が任務で巻物を持ってきたこと、巻物を渡した アスマからカカシがこの木立で交戦中であることを聞きつけて救援に来たことを手短に告げた。 「そうだったんですか。ありがとうございます。でもまさかイルカ先生本人が、こんな最前線に来るとは思わな かったなあ。こんなに強かったことも知らなかったし。」 「…無理を言って綱手様に任務を回してもらったんです。」 カカシの側に腰を下ろすとぎゅっと抱きしめられた。イルカは静かに言葉を紡ぐ。 「…あんたが任務に行ってから、何度も夢を見ました。それでも認めたくなかった。だって任務で離れ離れになる なんて忍びにとって当たり前のことでしょう?だけどチャンスだと思ったんです。」 いつだって待つのは苦手だ。だからこの任務がカカシに会えるチャンスだと思った。そうしたら行きたくてたまら なくなった。自分のプライドなんてとてもちっぽけなものだと気づいたから。 「…笑いますか?」 「なんで笑うの?オレだってイルカ先生に会いたかった。絶対に任務から帰らなきゃって、こんなに強く思ったのは 初めてだったんだ。…ちょっと危なかったけど。」 抱きしめられているせいでカカシの独白が耳元で聞こえ心地いい。イルカはあふれる涙を必死でこらえる。 「無事で、良かった…」 こらえきれず零れた一粒の涙をカカシは舌で掬い上げる。そしてイルカにやさしく口付けた。軽く口付けられて頬を 薄く染めたイルカにカカシは囁く。 「ねえ、言ってよ。イルカ先生の気持ちも、想いも。」 オレがアナタの忍びとしての実力を知らなかったように、アナタが心の奥底に隠した本音を聞いてみたい。 イルカはいつものように柔らかく微笑んでカカシに囁いた。何言ってるんですか、本音なんてこれだけですよ。 「…カカシさんに会いたかった。」 |