最悪なことに最悪なことは重なるもので。 「…任務、ですか」 「ああ、数日はかかるじゃろう。面倒だとは思うが、お前にしか頼めん仕事だ。よろしく頼むぞ」 里長にこうまで言われては断れない。まさか、自分とイルカとの仲を引き裂こうと画策しているのではないかとカカシは疑いたくなった。 よりによってイルカの誕生日直前に任務を申し付けられるとは。任務の内容を考えると、 どう考えても誕生日当日をイルカと共に過ごすことは不可能だった。 (あ…) 脳裏に先日イルカと共にいた女を思い出す。自分の代わりに、あの女がイルカの誕生日を祝うのかもしれない。 ――それだけは、許さない。 カカシは静かに上忍待機所を後にした。 「こんばんは、カカシさん」 「…こんばんは」 訪れ慣れたイルカの家。迎えるイルカも慣れたもので、にっこりと穏やかに笑うと、カカシを招き入れた。 「にゃあ」 居間に置かれたちゃぶ台の前にさっさと座り込んだカカシに、月子が身を摺り寄せる。 「…なんだ、お前来てたの?」 カカシは、先客の美しい毛並みに目を細めた。『人』に滅多に懐きはしない野良猫。 「…本当に、誰にでも好かれて困っちゃうね」 カカシの呟きに答える者はいなかった。 「カカシさん、どうしました?」 無言で夕食を平らげたカカシに、さすがにイルカも不審を感じたらしい。 「…明日から任務に就くことになりました。イルカ先生の誕生日には戻れそうもないんで。一緒に祝いたかったんだけどごめーんね?」 「そ、そんなの気にしないでください。無事で帰ってきてくださる方がよっぽどか大切ですし…。第一、忍びには良くあることです」 カカシの言葉に少し慌て、困ったように笑うイルカが、無性に腹立たしかった。 「…それ、本当?」 「え?」 「あの女と祝うんでしょ?今日見たんだ」 腕を伸ばして、強引にイルカを捕まえる。深青色の瞳が強くイルカを射た。最初は唖然としていたイルカだが、 カカシがイルカを抱きしめる腕に力を込めると、途端にじたばたと暴れだした。 「な、何を言っているのか、理解できませんよ!大体女って誰ですかっ!」 「へぇ、しらばっくれるんだ?」 そのまま寝室へイルカを連れ込み、ベッドの上に押し倒す。ぎしり、とベッドが悲鳴を上げた。 「カ、カカシさん!」 怯えたようにカカシを見上げるイルカにも、憐憫の情など感じない。イルカの上衣を無情にも剥ぎ取りながら、カカシはイルカの耳に顔を寄せた。 「あんたを、誰にも渡すもんか」 |