見たくないものに限って、見つけてしまうのは何故だろうか。 「イルカ先生、受付にいるかな?」 思ったよりも早くに終わった7班の任務。夕方の任務報告ラッシュにはまだ少し時間があるため、 カカシは別段急ぐこともなく、ゆっくりと受付所へ向かった。 そして、見てしまった。 がらんとした受付所から感じられる気配はイルカのものだけだった。 その筈なのに。 誰も来ないことをいいことに、イルカは受付所の窓辺に腰掛けていた。その膝の上には、一人の女が イルカに向かい合うように座っていた。 体重を感じさせないような、儚い雰囲気の細身の女性。透き通るような白い肌、似ているが自分とは異なる真珠色の髪は、 真っ直ぐに腰まで垂れている。オフホワイトのシフォンのワンピースが、5月の爽やかな風にふわりと揺れた。 二人は言葉を交わすわけでもなく、穏やかに時を過ごしていた。時折イルカの手が優しく女の髪を撫でる。 それ以上見ていることが出来なくて、カカシは受付所を去った。 逃げるようにやってきた上忍待機所。ありがたいことに全員出払っているようだ。無人であることにほっとしつつ、カカシはソファーに 身を落ち着けた。脳裏には先程のシーンがぐるぐると回っている。イライラする。…胸の奥がチリチリと焦げるようで。 (はぁー、あれってもしかしなくとも浮気ってやつ?) 清純そうで儚げな女性。絶対にイルカの好みだ。 「やっぱり、付き合って3年にもなるとこういう危機ってあるもんかねぇ…」 今まで散々浮名を流してきたが、こんなに長く特定の1人と続いたことはない。そして、恋愛感情を持ち続けて いられることも初めてだった。というより、惚れまくっているのだ。 「んなぁー」 ズブズブと暗闇に嵌っていくカカシの思考を現実に戻したのは小さな鳴き声。視線を足元に向けてみると白い毛並みが ちょこんと座っていた。 「おや、月子」 物言いたげにカカシの足元に纏わりついていたのは、綺麗な毛並みをした白猫だった。野良猫だがよく受付所にやってくるので、 イルカが時々餌をやっている。 おかげでイルカにかなり懐いているらしい。月子という名前は、イルカが真っ白の毛並みから連想して勝手に名づけたもので、 三代目の話によると、この猫はイルカの両親が健在だった頃から生きているという。 いくらなんでもそれは猫の寿命を越えてしまっているとカカシは思っているのだが、計算された行動といい、知性のある金色の瞳といい、 どことなく気品を感じずにはいられない。 「慰めてくれてるの?」 背中を撫でてやると、月子はカカシの足元に身を摺り寄せた。その温もりと行動に、少し気持ちが楽になる。 ふと視線を上げると、窓の外は鮮やかな若葉の色。日差しは少しずつ強くなっている。 「…もうすぐイルカ先生の誕生日だな」 プレゼントは希少な銘酒。一緒に飲み交わすのが毎年恒例の儀式だ。本当はもっと気の利いた品を送りたいけれど、 イルカにあまり気を遣わせたくないのでこのような嗜好品に収まっている。 「…とかいって、誕生日前にふられたらどうしよう。最悪だ」 カカシの力無い呟きに、頑張れ、とばかりに月子が一声鳴いた。 |