5 カカシがイルカの元へと歩み寄ると、青い顔をした外野たちはザザッと後退る。自然とイルカとカカシの前には道ができていた。 「な、なんで、カカシ先生がここに…。」 さすがのイルカもそう言うのが精一杯である。 「ん〜?家へ行ってもイルカ先生はナゼかいなくてねェ…。暇だからアスマと連れ立って黒夜へ来てみれば、イルカ先生がいるもんだから アイサツを…、と思って。」 どうといったことのない言葉の端々に、不穏な空気が漂うのはどうしてだろう。 横でハラハラと成り行きを見守っていたアスマは、本当かよ、とばかりに目を逸らした。 「黒夜の監視役は火影様から命じられた任務ですよ!」 「でもオレに黙って行ってんのは駄目デショ?」 「俺はあんたの恋人でもなんでもないっ!」 あまりの怒りに目が眩みながらも、イルカはゆらりと立ち上がる。その姿に、やべぇと呟いたのはアスマだ。 「おい、関係ない奴はさっさと黒夜に戻れ。麻雀は諦めろ。」 アスマに出来ることは野次馬共を遠ざけることだけである。 上忍たちとイルカのやり取りからカカシの登場までの一連の出来事を遠巻きに見ていた忍びたちは、 アスマの声に従い、そそくさと散っていった。…この二人の微妙な仲は里内では結構有名だが、巻き込まれるのは誰しも嫌なのだ。 残されたのは当事者二人とアスマ、そして少し離れた場所に置かれたソファにニヤニヤ顔の周防が腰掛けている。 「……いつまでも強情だね、イルカ先生。」 「うるさいっ!俺に平穏な日常を返せ!」 (ああ…、敬語までかなぐり捨てやがったな。) 一応の傍観者であるアスマと周防は心の中で同じことを思った。 「じゃあねぇ、イルカ先生。俺と賭けをしましょう。」 「賭け?」 思わず聞き返してしまったのはイルカ。カカシの側に立つアスマやソファに座る周防も虚をつかれた様な顔をしている。 「カカシ…。おめぇ、運を頼るような可愛い性格してねえだろうが。」 「うっさい、髭!…俺が勝ったら今晩イルカ先生を好きにするってことで。」 「アンタ…今までも散々俺のこと好きなように扱ってるじゃないですか!」 地を這うような低い声で抗議の声を上げたイルカにちらりと視線をやったカカシはふと視線を和らげた。 「まあ怒らないでよ、先生にもチャンスをあげる。もしオレが賭けに敗れたらあんたと別れてあげる。」 別れてやるとはどんな言い草だと怒鳴ろうとしたイルカの頭が瞬時に冷える。カカシの言葉が本当ならこれほどのチャンスはない。 賭けに勝てば波風を立てずにカカシと別れる(この表現は癪だが)ことが出来るのだ。 「いいでしょう。俺は負けませんよ。」 「そりゃ楽しみだ。何で勝負するかは選ばせてあげる。」 カカシの言葉を反芻しながらイルカは会場を一瞥した。目の前にあるのは麻雀の卓だが、麻雀は原則四人で行うゲームだ。この場合周防とアスマを巻き込んでしまう可能性が高い。 何よりカカシにイカサマをされると、見破ることは難しいだろう。 カカシがどれほどギャンブルに精通しているかはわからない。出来る限り自分に有利なゲームで手っ取り早く勝負したい。 イルカの視線が会場の隅に止まる。…あれならいいかもしれない。盤も持ち運び簡単だし。 覚悟を決め、カカシを睨みつける。飄々としてはいるがどこか捕食者の気配を潜ませた瞳は楽しそうにこちらを見ている。相変わらずイルカをイライラさせる男だ。 「……ルーレットで。」 イルカの声を聞いたカカシは、覆面の下で緩やかに唇を吊り上げた。 |