3 周防が謎の笑いを浮かべている頃、イルカはウヅキから起こったトラブルについて聞かされていた。 「麻雀!?」 「そうなんだ。ナツノ、鈴矢、ニジヒの3人は上忍数人の挑発に乗って麻雀で勝負することになったんだが…」 当然、金を賭けた賭け麻雀である。 「最初はいい感じに勝ってたんだ。だけど運が傾いてきたらそのままゴロゴロと落ちるとこまでって感じだよ。」 「ったく、なんで黒夜に来てまで麻雀なんかやってんだっ!」 すでに卓を囲んでいるのは上忍3人と中忍であるナツノとなっており、鈴矢とニジヒは脱落したらしかった。必死な顔をして ナツノを応援している。一方卓を囲む上忍たちは、余裕たっぷりに周囲で囃す上忍仲間と笑いあっている。 「…ロン!」 上機嫌な声が上がり、ウヅキは悲壮な顔になった。 「ああ、またあがられた…」 しばらくゲームの行方を見守っていたイルカが、眉根を寄せてウヅキに囁く。意味深な目配せ、局面によって変わるシャンツの振り方。 「…ウヅキ、勝負は最初からついてるんだよ。ナツノ以外の3人、それから外野の上忍たちはすべてグルだ。 おそらく何らかの方法で互いにナツノの牌や役を伝えてるんだ。初めの頃は勝たせて調子に乗らせ、後で巻き返して掛け金を根こそぎ持っていく 算段だったんだよ。」 「そんな…」 あまりに汚いやり方に唖然としているウヅキ(彼自身は何も悪くないのだ)をかわいそうに思ったイルカは、ウヅキの肩をポンと叩いて 、何を思ったか卓へと歩き出した。 「ナツノ、代わってくれないか。」 「…すまん、イルカ…」 ナツノと代わったイルカに、一人の上忍が嫌な笑みを伴って話しかけてくる。 「これはこれは…火影様の腰巾着で、写輪眼の情人じゃないか。さっきのゲーム運び見てたらわかんだろ?さっさと逃げ出したほうが身のためだぜ。」 イルカも辛辣に切り返す。 「…俺のどこが写輪眼殿の情人なんですか。目ぇ腐ってるんですか?」 「イルカ…!」 あまりにも無礼な物言いに、同僚たちは恐れおののいた。 「てめぇいい度胸だ。有り金根こそぎ貰っていくぜ!」 山賊のような台詞を吐く上忍の吼え声で、ゲームは始まった。 「ツモ!」 静かな声と共にジャラリと倒された牌に、どよめきが起こる。それと同時に卓の隅におかれたチップがイルカの元へとかき寄せられた。 イルカは共謀する上忍たちのサインやイカサマを潜り抜け、徐々に持ち金を増やしていた。その様子に同僚たちの表情が少しずつ明るくなる。 「…イルカ強えぇー!」 「さすがだな。」 (火影様の腰巾着ってのはこれくらいできなきゃ務まらねーんだよ…) 齢を重ねてもなお俗物的なものと縁の切れない偉大な里長に、自分が一体どれほど振り回されてきたことか。少し昔を思い出して、イルカは遠い目をした。 ちょうど全荘が終了し、イルカはナツノたちが取られた分を取り返したことを確認し、上忍たちに賭けの終わりを告げた。 いつの間にか増えていた勝負とは無関係の外野が、それと同時にため息を漏らす。 「…これくらいでいいでしょう。取られた分は取り返したし、あなた方にも損は出ないはずです。今度はイカサマなどせず、正々堂々と勝負してください。」 「くっ…!」 プライドと打算を打ち砕かれた上忍たちは怒りの形相をしていたが、自分たちの分が悪いことを悟ったのか反撃してはこなかった。 ついでにいえばなぜかイルカの背後を見て固まっている。顔色も悪い。無関係なはずの外野も同様だ。 「…どうかしました?」 「…イルカ先生、オレとも遊んでくださいヨ。」 (この声…まさか…まさか!) ふいにかけられた言葉に、イルカはギクシャクと振り向いた。とてつもなく嫌な予感がする。――そして予感は外れない。 そこには、イルカに不幸を運ぶ銀髪上忍の姿があった。 |