4 周防はカカシの質問には答えず、静かにイルカを畳に横たえた。イルカの表情は安らかなものだ。未だ眠りを 漂っているらしい。そして、よっこらせ、と立ち上がり、まっすぐにカカシを見据える。カカシとほぼ同じ 身長をした周防は、真剣な眼をしてカカシに告げた。 「はたけ、イルカの過去を探ろうとするな。暗部時代はイルカの最も幸せであって不幸せな思い出だからな。」 「何それ?周防、お前オレに意見するつもり?」 カカシの脳裏に、先程のイルカに膝枕をしていた周防の姿が眼に浮かぶ。それに続いて湧き上がるのは嫉妬。 「違うな、これは警告だ。」 カカシの殺気にも全く動じず、飄々とした周防にカカシは根負けした。 「…やっぱりアンタは嫌いだ。ていうかイルカ先生とどういう関係な訳?」 覆面をしていても渋い顔をしているのが良く分かる。そんなカカシを密かに面白い奴だと思った周防は、柔らかな 笑みを浮かべた。 「安心しろ、お前が疑うような間柄じゃない。イルカとはアカデミーの同期なんだ。旧友ってやつだな。」 「ふーん。じゃあ、アンタは友人とオレを天秤にかけて、オレを取った訳?」 「…どういうことだ?」 「オレがイビキに薬を譲ってもらいに行った時に言われたんだけど…」 『イビキ、イルカ先生に効く媚薬ってない?譲って欲しいんだけど。』 『…っ!』 拷問部隊を率いる多忙なイビキの、待機室におけるひと時の安らぎの時間を台無しにしたのはカカシのこの一言だった。 コーヒーを吹き出しそうになったイビキは、慌てて口元を手ぬぐいで拭った。 『…カカシ…、いきなり何を言い出すんだ。』 『だって普通の媚薬じゃ効かなかったんだもん。イルカ先生って元暗部なんでしょ。』 賢明にも無言を貫いたイビキはさすがに里の誇る拷問部隊長だった。 『…あるには、ある…が、どう考えたってそりゃあ犯罪だろう。』 頭痛いとばかりに呻いたイビキに、カカシはさらに追い討ちをかけるが如く、脅しをかけた。 『ね、お願ーい!じゃないとオレ、頼まれても任務協力しなーいよ。』 あまりに非道だ。イビキはついに折れた。しかし最後の抵抗を試みる。 『この薬は本当に危険なんだ。まだ試験体には試させてないからな。作成者の周防の許可がないと使用出来ん。』 そう言うとイビキは式を放ち、周防に許可を求めた。もちろん周防がイルカと親しいのを知ってのことだ。 友人である周防なら、薬の使用に反対するだろう。 ――しかし帰ってきたのは予想外の返事で。 『……周防の依頼を一つ聞くことを条件に許可する…だと。』 がっくりとうなだれるイビキを尻目に、にやりといやらしい笑みを湛えたカカシは、じゃあね、と声を残してイビキから 薬をもぎ取って姿を消した。 『イルカ、すまん。』 イビキのセリフはカカシに聞こえたかどうか。 |