5 「…ああ、そのことか。」 事の顛末を聞いた周防は不敵な笑みを浮かべた。 「俺がイルカよりもはたけ、お前を重きに置くと?」 静かに言い放った周防はすばやく印を結んだ。やはり二つ名を持つ上忍、と感嘆させられるような手さばきだ。 (これは結界術…ともう一つ…) 一瞬にして馴染みのある気配が姿を現す。何故か酒瓶を一瓶抱えたイビキだった。 「…召喚術か。何でここにイビキがやってくる訳?」 嫌な予感がする。まさか三代目にチクったのだろうか。思い当たる節のあるカカシは密かに眉を顰めた。 「周防、手を煩わせて悪かったな。ほら礼の酒だ。」 「いいえ、構いませんよ。」 酒瓶を手渡されてご機嫌な周防は、にっこりとイビキに笑いかけた。瓶のラベルには超高級銘酒の名前が記されている。 意味を掴めないカカシは困ったように二人を見た。 「…どーいうこと?」 「はたけ、薬の使用条件は、俺の依頼を一つ聞くことだったよな。それはイビキさんの実験に協力することだ。」 「そういうことだ、カカシ。」 謀られた。気づいたカカシの表情が一変する。逃げようにも結界が張られていて、逃げることが出来ない。 「ちょうど上忍クラスの実験体が欲しかったし、写輪眼の研究もしたかったところだ。」 いつの間にか背後から周防にがっしりと捕まえられ、カカシはとうとう悲鳴を上げた。さすが、舞風の蘇芳、風のように素早い動きだ。 「ちょ、ちょっと待ってよ、待てって!助けて、イルカ先生!」 必死のカカシの叫びも、ぐっすりと眠りを貪るイルカには届かない。 「…まさか、イルカ先生にこの企みの真相を悟らせないために眠らせたのか?」 ――そうだったとしたら。…本当に食えない男だ。 「高くついたな、はたけ上忍。」 「見苦しいぞ、カカシ。里一番の実力者が!…とりあえず一旦写輪眼を摘出してみたいんだが。」 「無理無理、絶対無理!まだ死にたくないって!」 感情をあらわに必死に言い逃れるカカシを無情にも引きずっていくイビキは、さすが里の誇る、泣く子も黙る拷問部隊長であった。 ご愁傷様、とばかりにひらひらと手を振る周防は、すっと眠るイルカを見下ろし、しゃがみこんでイルカの髪を撫でた。 「これから、楽しくなりそうだな、イルカ?俺もお前もそろそろけじめをつけてもいい時期だろ。」 今度お前が遊びに来てくれたら、この酒を開けて飲もうか、そう楽しそうに呟いて周防は部屋から庭を眺めた。 その後数日間、イルカはカカシに会わずに済み、疲れた心を癒すことが出来た。そして上忍待機所では、『実験嫌い、実験嫌い』 とソファの上でひざを抱え、ぶつぶつ呟く銀髪の上忍の姿があったという。 |