2 「…んなっ…」 イルカが思わず首筋に手をやった。しまった、という表情が一瞬にして赤く染まる。 「…だ、誰のせいだと思って…!」 「だから、悪かったって。…こっちにも色々事情があるんだよ。忍びをやめたからって、元暗部を 簡単に手放すような里じゃない。」 「…まあ、な。」 だからってこんな薬を作らなくてもいいじゃないか、とぶつぶつこぼすイルカに周防は苦笑する。 「楽しめたと思うんだけどなあ〜。」 「俺はこんなこと望んでない!」 嫌なことを思い出したのか、イルカの肩が震える。握り締めたこぶしが音を立てたような気がした。 「…お前は失うことにも、手に入れることにも臆病になったな。」 急に真面目な顔をして切り出した周防に、どういう意味だ、とイルカは困惑して尋ねた。要領を得ない イルカに、いやこっちのことだ、と周防はひらひらと手を振った。一瞬にして真剣な表情は消え去り、生来の 飄々とした風体に戻っている。イルカは首を傾げたが、周防が御点前を始めたので口を噤み、それに付き合う。 イルカもしつけに厳しかった母のおかげで、一通りは茶道の作法をこなせる。足が痺れるが、イルカはこの厳然とした 雰囲気が好きだった。 一連の動作が終わり、周防が茶器を流しの方へと持っていくと、周りの張り詰めた空気がふっとゆるんだ。 茶を一杯頂いたイルカは、案内を頼んだ白猫を膝に乗せ、足を崩してくつろいでいた。 「周防、やっぱりまだ忍びとしての任務もこなしているのか?」 イルカの問いに、周防は曖昧な笑みで返した。 「今は薬師として里の薬屋に薬を卸したりしているがそれはあくまで表向きの話でな。今でもたまに忍びとしての 任務は回ってくるよ。それでも現役の時よりは遥かに少なくなったけどな。その関係でイビキさんに薬の調合を 頼まれたりすることもある訳だ。」 「…そうか。」 「まあそれが、暗部を抜けた後に中忍としてアカデミー教師となったお前と、上忍になった俺との違いとも いえるだろうな。」 ナルトかわいさとはいえ、本当に出世欲のない奴だったな。周防の懐かしさを含んだ微笑みに、気恥ずかしさを 感じてイルカは首をすくめた。 「なんかお前とこうやって昔のことを話すのは不思議な気分だな……ねむ…」 小さなあくびをしたイルカに周防は小さな笑いをこぼした。 「横になって寝ててもいいぞ。お前は休んだほうがいい。仕事が順調なのはいいことだが、お前のことだ。働きすぎなんだろう?」 眠りという誘惑に引き込まれ、イルカは静かに意識を手放した。 |