2 例の居酒屋で別れてから数日後。イルカは受付所で応対に追われていた。アカデミーで子供の相手をするほどではないが なかなか忙しい部署であるため、常に人手不足なのだろう。同じ内勤のイルカにこの業務は頻繁に回ってくる。 イルカが忙しく任務報告書に眼を通していた時だった。見知った気配を感じ取りイルカはわずかに眉を顰める。この数日間 目の前に姿を現さなかったので安心していたのだが。 「…お疲れ様です、カカシ先生。」 「はい、お疲れ様です、イルカ先生。どうです、久しぶりに飲みに行きませんか?」 報告書を差し出し、にこりと微笑むカカシは数日前のやりとりなどすっかり忘れたかのようにイルカを飲みに誘った。 「ええと…」 イルカがどうにかして断る口実を見つけようとしていると、カカシが耳元で囁く。 「…実はこの前任務のお礼で『木ノ葉吟醸』を頂いたんですけど、どうですかね?」 カカシの甘い囁きにイルカの耳はピクリと反応した。木ノ葉吟醸といえば中忍にとって幻に近い高級銘酒だ。もちろんイルカ も飲んだことなどない。頭のどこかで警鐘が鳴ったが、酒の誘惑には勝てずイルカはカカシの申し出を承諾した。たとえ先日の ように薬を混ぜられても自分には効かないのだから。 (やっぱりこの前の薬ってアブナイやつだよな…) どんなふうにアブナイのかは想像したくない。やはり一抹の不安がよぎるイルカであった。 受付業務が終わったイルカはカカシに連れられてカカシのアパートにやって来ていた。あまり広くはないが、割と整頓された 部屋はカカシがあまりこの住処を利用していない証拠だろう。ほとんど人が住んでいる気配が染み付いていなかった。 それだけさまざまな任務に借り出されているのか、それとも女の所に通っているのだろうか。 イルカが興味深そうに辺りを見回しているのをそのままに、カカシは戸棚から酒瓶を持ち出してきた。 「適当に肴を出してくるんで、先にやってていいですよ。」 そう言ってカカシは栓を開けグラスに酒を注ぐ。上品な酒の臭いが辺りに漂った。 「すいません。お言葉に甘えてお先に頂いちゃいますね。」 杯を干し、やっぱり高級酒は味が違うなあとイルカが貧乏臭いことを考えていると、イカの塩辛や干物などを盛った皿を片手にカカシが現れた。 なごやかに酒盛りが始まり、しばらくしてカカシが口を開いた。なぜかとても楽しそうに。 「ねえイルカ先生、実は聞きたいことがあるんですけど。」 「何ですか?俺みたいな中忍に聞きたいことって。」 酒のせいなのかいつもより上機嫌なイルカは、のんびりとカカシに聞き返す。しかし、カカシの一言に凍りついた。 「あのさあ、昔暗部に所属してたって本当?」 その瞬間、一気に酔いが醒めた。 |