朱を奪う紫  オーヴァードーズ


   


――イルカは不機嫌な顔をして居酒屋で酒を飲んでいた。向かいに座って徳利を傾け、イルカの杯に酒を 注ぎ足しているのは里一番の実力を持つ上忍だ。
「…で、なんで毎夜毎晩あなたはしがない中忍の俺を飲みに誘ってくれるんですかね?」
「んー?それはイルカ先生とヤリたいからですねえ〜」
にこにこと、しかしイルカにとっては聞き流せないような言葉を吐いたカカシを、イルカは顔を引きつらせて 睨んだ。
「俺はカカシ先生に対してそんな気はこれっぽっちもないんですけど。」
「だから、優しくするって言ってるじゃないですか。良いでしょう?」
「…いいわけないでしょうがっ!」
冗談じゃない、とばかりに荒く杯を干したイルカを眺めながら、カカシはため息をついた。
「冷たいですね。オレが毎日愛を囁いているのに…」
イルカはカカシの言葉を平然と聞き流す。カカシの華々しい私生活のことは、中忍のイルカにも聞こえるところ だった。確かに自分の前で口布を外してちびちびと酒を口に運ぶカカシの容姿は整っており、女性には受けがよい ことだろう。そんなどんな美女も選び放題の男がちょっかいを出してきたのが、至って平凡な自分だ。明らかに 一時的な気の迷いとしか思えなかった。
(…尊敬してたんだけどなあ…)
こんなふうに迫られているのが噂になっては困る。苦々しく思いながらも、イルカはカカシに帰る旨を伝える。
「何を言われても俺はカカシさんに応える気はないですから。それでは失礼します。」
奢るというカカシの申し出を丁重に断って、イルカは立ち上がり振り向きざまにカカシに告げた。
「…それから、酒にロクでもない薬を混ぜるのはやめてくださいね、俺には効きませんよ。」
そして勘定を済ませ、まっすぐに店を出て行った。

残されたカカシは一瞬言葉を詰まらせたが、喉の奥でクククッと笑い出す。そして全く反省していない口調で 呟いた。
「あーあ、残念。効かなかったか。」
中忍でありながら、全く上忍に媚びようとはしない。アカデミーの教師でありながら、上忍の仕掛けた薬を見破る。
(…というか飲んでたのに効いていなかったのか。)
子供たちと接するときとは全く異なるイルカを見た気がした。ただの中忍というにはあまりに多くのことを隠し持って いそうな姿はカカシの好奇心を煽るだけだ。
「オレは、欲しい物は必ず手に入れる人間だから…悪いけどね。」
うっそりと笑うカカシは上機嫌で残った酒を飲み干した。もちろんカカシにはこの薬は効かない。

――さあ、ゲームの始まりだ。



   ギャー、やってしまった…まだ連載も終わってないのに。もう何も言えないです。
   2005 11 27 陸城水輝



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