「ウソ。あの子、女子高生なの?ハーフとか、外人とか?」
「秘密。・・・でもいい子だよ。ダチの中では、多分一番気が合うんじゃないかな。
・・・あのCF見てるとね、あたしも頑張ろうって思う」
「頑張って・・・オヤジ狩り?」
契約愛人や援交やオヤジ狩りを、本当は快く思っていないシンジが、
ちょっとだけ声のトーンを落として呟く。
「資金稼ぎよ。卒業したら、二人で遠くに行こう。
いくらシンジが稼いだって、この部屋キープして更に貯金する額なんて知れてるじゃない。
あたしも稼ぐの。今のうちにばんばん稼いで、あたしが高校卒業したら、ふたりで遠くに行こう。
それで、おとぎ話のラストみたいに幸せに暮らすのよ。今の生活から足洗って、お金いっぱい
持って。
外国もいいな。熱帯とか、暑いところ。チープでカラフルな服着て、シンプルに暮らすの」
コーヒーを飲み干してエネルギーチャージを終えたシンジが、にっこりと微笑む。
「カラフルで、民族衣装みたいな奴?」
「そう。後はジーンズとか。シンジの肌、真っ黒に日焼けするよ」
「ユーリに似合いそうだな」
「勿論。で、外国でおとぎ話ライフを送るの。いいでしょ」
そうだね、と微笑んで、シンジはバスルームに向かった。あたしは先にシャワーも浴びて、
シンジの笑顔で消毒が済んでいるので、後は眠るだけだ。
「ユーリ、今日学校は?」
バスルームからシンジの声がする。あたしはシャワーの音に負けないように叫んだ。
「休む。当然。次の仕事の時間まで、今日はシンジと一緒」
クラブのホストと6人のパパを持ち、オヤジ狩りなんかもする女子高生。
なんてわかりやすい組み合わせだろう、とたまに思う。他に大金を稼ぐ方法がないとわかるや、
あたし達はためらう事なくそれを仕事として持った。
シンジはもともとホストだったけれど、あたしだってどうせ、なるようにしかならない身だ。
そこから抜け出せる場所に行くにも、やっぱり資金は必要になる。
お互いに資金源を何人かずつ持っていたあたし達は、それを増やして徹底的に稼ぐ事に
決めたのだ。
そして、その金を持って、何処かへ行こう。何処か、うんと遠くへ。
そうしたらあたし達はきっと、幸せになれる。
シャワーを浴び終えたシンジがベッドルームに入ってきた時は、あたしはもうベッドに潜り
込んでいる。
本当はパーティーで使うかと思って買った、キングサイズの高価なベッド。
途中で気が変わって、人が来る時は鍵をかけている。
あたしとシンジだけの為の、休息の部屋だ。
カフェインとシャワーで元気を取り戻したシンジは、眠いと言っていたのにも関わらず、
丁寧にあたしの身体を唇で洗浄した。お互いにセックスを仕事にしているあたし達は、
こうやってお互いの身体をきれいにするのだ。汚いオヤジや欲求不満のババァから受けた
汚染を消毒する為の、魔法の時間。たまに涙が出るけれど、この涙もきっと消毒の証だ。
息を荒くしたまま抱き合ったあたし達は、夢の中にいるようにぼんやりとしている。
疲れて、今にも眠りに落ちそうなのだ。
「ユーリ、またその歌歌ってる」
くすくすと耳元で笑うシンジの声がした。
「Chara、だっけ。ずいぶん前の歌なんじゃない?」
「そう。『あれはね』って歌。・・・小さな街に行くのもいいね、シンジとふたりで」
これは、あたしの癖だ。
他の奴としても鼻歌なんて歌わないけれど、シンジとセックスをした後は、
殆ど無意識にこの歌を歌っている。
ちいっさなまっちへぇ、どっこぉでもいーわ、あなたといっしょ、ならね・・・。
「ユーリの声、きれいだな」
シンジの満ち足りた声に嬉しくなって、あたしは最初から歌いなおした。
小声で、囁くように。子守唄みたいに。
シンジはそのまま眠ってしまい、あたしも幸せな気持ちで眠りに落ちた。
ずっと、そうしているものと思っていた。
ちいさな子供が、明日も明後日もおなじ公園でおなじ友達と遊べるものと信じているように。
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