OKがなかなか出ないまま日が暮れてきて、結局カタオカの「まぁ、初日ですから」
という取り成しで撮影は中断された。
ぐったりとしてホテルに戻ると、フロントの男にあたし宛に母親から電話があったと伝えられた。
一応、旅行日程というか、撮影日程と宿泊場所は教えてきたのだ。
不審に思って部屋の電話で自宅にコールバックすると、母親が困り果てたような声で出てきた。
「ああ、マミちゃん?あのね・・・ちょっと、こんな時に何かとは思ったんだけれど、
・・・あなた、今遠くにいるし。一応仕事中だしねぇ」
「何なの?」
歯切れの悪い母親の言葉に、それでなくとも散々だった撮影で半ギレ状態だったので、
苛々としてあたしは言った。
「あのね・・・学校のお友達で、山崎さんっていたでしょう」
「ユーリ?ユーリがどうかしたの?」
心臓が、跳ねた。何故か妙に嫌な予感がして、心の警報が頭にわんわんと鳴り響き、
国際電話の遠い声を聞き取る事さえ困難になる。
母親はひとしきり言いにくそうにためらってから、続けた。
ヤマザキサン、キョウオナクナリニナッタソウナノ。ハイエンヲコジラセタミタイナンダケレド・・・。
警報が最大音量になり、あたしの耳は何も聞こえなくなった。
オソウシキ、アサッテナンダケレドモ、アナタシゴトデショウ、タダ、
イチオウツタエテオイタホウガイイカトオモッテ・・・。
マミ?キイテルノ?マミチャン?
あたしの手は、勝手に受話器を置いていた。
ユーリが、死んだ。
肺炎で死ぬなんて、今時なかなか出来る事じゃない。年寄りならわかるが、10代で。
でも。
もしユーリが既にエイズに感染していて、発病していたなら
・・・その時には話は別だ。白血球が減少し、細菌に対する抵抗力が弱まって、
外だろうと病院の中だろうと、そこに何らかの病原菌があるならば。
ユーリがHIVポジティブで、その潜伏期間を越えていたのなら。
それでなくても頻繁に摂っていたドラッグや荒れた生活で、その生命を縮めていたのなら。
あたしの目の前が、急に真っ暗になった。
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