FILM1 MAMI
「カノン」としての仕事は、順調だ。11月には撮影旅行があるとも言われている。
ただ、二学期に入って気がかりな事が、ひとつだけある。
ユーリが、いない。
ケイタイはいつもOFFになっていて、マキやショージに聞いても、
昼間のユーリが何処で何をしているのかはわからない、と言われた。
気になって、夜に家と港区のマンションの両方に電話をかけてみたのだけれど、
どちらにもいなかった。ユーリの実家の方では、本当に何もわかっていないのかわかりたく
ないのか、歯切れの悪い返事しか聞けなくて、それがあたしの不安を一層深刻にさせた。
ユーリは、何処で何をしているんだろう。
街を歩いていて「カノンさんじゃないですか?」などと声をかけられると、
あたしはパニックに陥りそうになって、一人で外に出る事さえ怖くなった。
「ねぇ、そうなんでしょ?高校生?ねぇ、あんた、カノンなんでしょう?」
渋谷の街中で腕を捕まれ、大声でそう言われた時には足が凍りついた。
制服姿のまま、ミ・ジェーンの買い物袋なんか提げているところで、オタクっぽい男に
腕をがっしりと掴まれたのだ。違います、と言っても腕は掴まれたままで、あたしは恐怖を
感じた。
「しらばっくれても駄目だよ。オレ、全部チェックしてるんだから。ねぇ、そうなんでしょう?
女子高生だって噂聞いた事あるけど、やっぱりそうなんでしょ?その制服、都立のアレでしょ?
ねぇ、なんとか言えよ」
ユーリ。
頭の中で、ユーリの名前だけが点滅した。こんな時には、いつもユーリが助けてくれたのだ。
腕を引っ張って。気の強い女子高生の振りをして。
「違うったら!あんたなんなんだよ、頭おかしいんじゃないの?汚い腕、放せよ!」
ぽかんとした男の腕を振り払い、さっさと立ち去った後で、恐怖が心の奥にまで染み通って
きて、あたしは泣き出しそうになった。マキは堕胎をしてから彼氏とうまく行っていないらしく、
いつも元気がなくてそそくさと帰ってしまい、あたしとつるむ人間は誰もいなくなってしまった。
パーティーも最近はないので、他の学校の連中とは顔を合わせる機会さえない。
ケン。
閃いて、あたしは狩りの司令塔、ブレインのケンに連絡を取った。仲間の中では一番頭が
切れて、いろんな事を知っている。ユーリの事も何か知っているに違いない。
学校は違うけれど、ケイタイに連絡を取ると、なんとか呼び出す事が出来た。
渋谷のマクドナルドで落ち合い、あたしはユーリの事を問い質した。
「ユーリ、最近変なんだよ。夏休み以来会っていないと思ったら、9月の半ばにいきなり電話
かけてきて
・・・今は狂ったみたいに狩りをやってる」
「・・・どういう事?」
何考えてるのかわからないよ、とケンは両手をあげた。
「一応、計画は俺が立ててる。ただ、獲物だって上玉がそうごろごろしてる訳じゃないだろ。
だから・・・いい獲物がいなさそうな時には、別のルートにシフトしてる」
「別のルート?」
詰問調になったのも構わずにあたしが言うと、ケンは少し口ごもった。
ケンは、狩りの司令から援交の斡旋まで、インターネットとハッキングで全て行っている。
全てはアンダーグラウンドで、その頭脳とアイディアひとつでかなりの金額を動かしているのは
知っていたけれど、その幅まではあたしも聞いたことがなかった。
「ねぇ、別のルートって、何よ」
「・・・ヒロト。ほら、マキの彼氏。あいつら別れるみたいだけど
・・・俺、あいつと組んで、ネットでウリも斡旋してるんだ。
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