☆ タッチ・ニュアンス( ギターの微妙な指の動きの伝達)が向上
☆ サステイン(音の伸び) の向上
☆ 音圧の強化
☆ Volume をゼロにしていても出ていたハムノイズの大幅低減
☆ 特定の音程に呼応して出ていた寄生発振音の根絶
☆ 失われていた倍音成分を取り戻し、色艶のあるクリーン音の再現
試奏によるサウンドテストと目視による回路の検査を行いました。
1. 発振が出る。ノイズも出る。
特定のフレットで、ギター音に重なるように不快なビビリ音のような音が出ます。
これは寄生発振 ( Parasytic Oscilation )です。
増幅段の後半の信号が初段や二段目の増幅段の入力信号に寄生して再度増幅されることから、
寄生発振と呼ばれます。
その原因は回路部品の劣化と配線のレイアウトの両方です。
バックグラウンドのハムノイズも高めです。ヴィンテージの Tweed は元々ノイズが高いのが特徴です。
しかし、このノイズの大きさは失格です。グラウンド配線の方法と回路部品の劣化が原因です。
2. アンプの現在の音質
Tweed のコピー・アンプとして、それらしき音は出ています。
しかし、Tweed のサウンドとは少し違います。どこかおかしいと感じます。サステインが乏しい。
左の指先の細かなニュアンス( 押弦の強弱 )に反応しつつサステインが伸びて欲しい。しかし、その敏感さにに欠け、鈍感です。
倍音が少ない。いま一つサウンドに艶がありません。
3. 回路部品とそのレイアウトのチェック
A) 部品レイアウトと配線順序が Tweed Deluxe のデッド・コピーです。( Heater 配線は除く)
オリジナルの Tweed Deluxe の配線レイアウトは、いくつかの設計問題を抱えています。
・グランド配線の順序違い
・トーンスタックのグランド位置がずれている
・長すぎるパワーチューブのグリッド配線
等は高めのノイズレベルと、Volume を上げたときの発振の原因となります。
B) アルミ電解コンデンサーの製造年が2000年と 13 年も前のものです。
既に 製造後12年が経過し寿命がぎています。交換時期にきています。
アルミ電解コンデンサーの寿命はおよそ7年であるというのがコンデンサー・メーカーの見解です。
大きいハムノイズの原因のひとつです。
C) トランス ( PT と OT )
PT ( 電源トランス) はAC 120V ( 米国のコンセント向け) 用です。電圧計測すると、 本来6.3 V必要な ヒーター電圧は 5.2V
しかありません。 AC100V ( 日本のコンセント)対応のMercury のPT に交換すれば、ステップアップトランスは不要になります。
OT (出力トランス) はブティック系のアンプとしてはめずらしく、 Mercury ではありません。
Mercury では、Tweed deluxe 向けに数種類販売されています。
受け入れ検査の結果とお客さまのご要望を元に以下の5つの作業方針を決めました。
2. フェーズインバーター回路のオーバーホール Fig2.
この回路はパワーアンプの音色を大きく左右します。交換に使用するカップリング・コンデンサーのタイプとメーカーの選択によって
音質が変わります。Spragur のオレンジドロップは2種類の材質と3種類の耐圧が存在します。ツイードのサウンドに合うように使う場所と部品のタイプを選択し、交換しました。
3.トーンコントロールとプリアンプのオーバーホール【発振対策の実施】 Fig 3.
このアンプは A音で発振が出ています。ポット部の配線とプリアンプ回路の配線にパワーアンプからの信号が寄生して発振します。オーバーホールを行うと同時に発振対策を施しました。
発振防止策は単にシールドケーブルを使うだけだと、音質を削ってしまいます。
チャンネルの特性や増幅回路の段に応じて、いくつかのシールドケーブルを使い分ける必要があります。
ここまでで、回路のオーバーホールとその発振対策が終わりました。
サウンドが見違えるように良くなりました。
オーバーホールをスキップし、トランスのグレードアップだけをしても効果は半減します。
オーバーホールと発信対策をし、回路の基礎の音をしっかりと構築し、ノイズを減らし、
倍音を取り戻した後に、トランスやケーブルのアップグレードをおこなうと、はじめて効果が生きます。
4. トランス交換 MercuryMagnetics トランスへのアップグレード Fig.4
Victoria の出力トランスは、音質・音色の繊細さに欠けます。特にタッチニュアンスが少なく感じます。
MercuryMagnetics の FTDO-59s に交換し、真の5E3回路の音色にします。
Victoria の電源トランスは 120V 用が付いています。本来の音圧を出すにはステップアップ・トランスを使い家庭のコンセントの100V
を 120V に昇圧してお使いになっていました。
MercuryMagnetics の FTDP100/120-M に交換し、ステップアップ・トランスを不要とすると共に、5E3 回路の持つ本来の音の迫力を取り戻します。
オーバーホールで実施した一連の回路改善とマーキュリー・トランスとのコラボによって低めのボリュームでも艶やかなサウンドと良質のサステインを得ることが可能になります。
Fig4. は交換の手順を記録した写真です。
5. AC Inlet の取りつけ Fig5.
お客さまのご要望により、電源ケーブルは取り外し可能なようにギターアンプのシャーシーにインレットを取り付けました。
・インレットの型紙を作製し、シャーシーにマーキングし、マーキングに沿って穴をパンチで開けます。
・元から付いていたケーブルの穴を金属板で塞ぎ、
・インレットを取りつけ、シャーシー内部で配線して完了
6. スピーカーケーブル交換 Fig6.
ギターアンプ回路のオーバーホール → トランスのアップグレードと進んできました。
次はトランスとスピーカーを結ぶ経路をグレードアップして完璧を目指します。
現状は Belden 9497が付いています。これを WE 復刻版 AWG 18 スピーカーケーブル にグレードアップします。
このクラスのアンプには もう一回り太い AWG16よりも AWG18 の方が高域から低域までのバランスに優れます。
スピーカーケーブルの作製で最も大切なことは「撚り」です。
撚りとはプラス側とマイナス側の2本の線を交互に重ね合わせる作業です。
この撚り具合で音質が変化します。撚りが浅い(ゆるい)と低音がバタついてブヨブヨの音になります。
撚りがきつ過ぎると、音の迫力が低下します。
2本の WE ケーブルを慎重に撚ってアンプ側は現状のスイッチクラフト・ジャックに取りつけ、スピーカー側には 3M の端子を取り付けました。
7. 真空管の選択と交換 Fig7.
Fig1. から Fig6.までの作業を終えて元の真空管を入れて試奏を行ないました。
ノイズは激減し、発振は根絶しました。
サウンドには艶やかな倍音が蘇り、サステインと迫力が強化され、極上の 5E3 サウンドとなりました。
このままで申し分ないところです。
真空管も新品にしたいというお客さまのご要望に基づき、ベストな真空管をチョイスしました。
先々のメンテナンスのことを考慮し、入手しにくい NOS は避け、いつでも入手可能な現行生産メーカーから選びました。
V1: 初段増幅のプリ菅( ギター信号の入り口)= Electro Harmonics 製 12AY7
NOS の GE 12AY7 とほとんど変わらない音質特性を持ちつつ耐久性もあります。
V2: 2段目増幅とフェーズインバーター回路 = Svetlana 製 12AX7
12AX7 は多くのメーカーで生産されています。数ある中から比較的低ノイズで音質がクリアながらサステインがあります。
V3/V4 : パワーアンプ = Tungsol Reissue の 6V6GT
倍音が決め細やかに出ます。
V5: 整流菅 = JJ の GZ34 ( 5AR4 )
ここは 5Y3 ではなく、音の立ち上がりを重視して 5AR4 にしました。JJにした理由は一重に耐久性のよさです。
これでようやく完成しました。
ギターアンプの問題点は全て解決しました。
またサウンドは「ええこんなに違うものか?」という印象を持つぐらい改善しました。
お客さまからは「大いに満足しています」というコメントを頂戴しました。
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