(c) copy right Guitar Amplifier Manufacturing and Professional Services ギャンプス 2013
お客さまによりますと、
・ 2013 年に中古でご購入。
「某ショップでオーバーホール済み、ポット交換済み、コンデンサーは全てオレンジドロップに交換」
という売主の説明に誘われてご購入
・スピーカーを Jensen C12K に交換
・ 音圧が弱い
Volume の目盛り 6でも 他のデラリバの目盛り 3ぐらいの音量しか出ない。
・ 真空管を交換しても改善しない。
・ Fender のデラックス・リバーブの本物のサウンドが欲しくて購入したのに期待はずれです。
・ ギャンプスならなんとかしてくれるものと期待しています。
・ 作業内容と納期はギャンプスに全ておまかせします。
1. Normal チャンネルの音圧は明らかに小さい。
どこかが壊れているというより、鳴っているのに、なぜか、おとなし過ぎると感じる。
2. Vibrato チャンネルは少しは音圧はある。しかし、倍音が乏しい。
高域も乏しく Fender アンプ特有のキラキラした感じが全く無い。
「曇っている」という形容詞が当てはまる。
ジャズをするなら我慢はできるが、ブルースのリックを弾くと、とたんに気持ちが萎えてしまう。。
抵抗とコンデンサーは確かに過去にオーバーホールされています。
しかし、ところどころにAA763 の抵抗値が使われていたり、
ブラックフェースの回路にするには合わないタイプのコンデンサーが使われていたりしています。
音が小さいことの原因ではありません。しかし、高域の倍音を削っています。
Fig2. のとおりアルミ電解コンデンサーの製造年は2004年です。
カップリングコンデンサーは 1999年です。
過去のオーバーホールは今から 9年前ということになり、
アルミ電解コンデンサーの寿命はもうそろそろきてしまいます。
Fig1. と Fig2. の状況から全てのコンデンサー ( アルミ、カツプリング共)の交換が必要です。
次に配線材に目を向けてみますと、
過去のオーバーホールでほぼ全ての配線材が白いナイロン皮膜のものに交換されています。
太さ AWG22 の撚り線が全ての場所に使われています。
ヒーター配線は細すぎると発熱したり、負荷により断線してしまうため、本来は AWG 20 から AWG 18 の太さが必要です。しかし、ここにも
AWG22 の同じが使われており、安全上問題があります。
ギター信号が通過する部分はブラックフェース回路であれば単芯線が良く合います。
しかし、この部分も撚り線です。
同じ撚り線であってもベルデンの83028 等であれば単芯線と遜色の無い音に出来ます。
しかし、使われている配線材は撚り線一本の径が細い一般市販品です。
音の輪郭が不明瞭になっている一要因です。
配線材は数百箇所のソルダーポイントに使われます。一本ずつではわずかな性能差であっても、全て足し算したときにかなり大きな音の差となって現れます。
全て交換の必要があります。
部品の搭載されている表側にうっすらとカビが付いています。
もしやと思い回路ボードの裏側を見てみました。
Fig 4. のようにビッシリと白いカビで覆われています。
かなり長期に亘りギターアンプが高湿度にさらされていたことを意味します。
これだけのカビが発生しているということは回路ボードの絶縁性能が大幅に低下しています。
「音圧が弱い」という、このギターアンプの不具合の原因は、カビ発生によるボード絶縁性能の低下が大きい割合を占めています。
回路ボード上で近接しているハンダ付けポイント相互の導通は通常はありません。
ところが、ボードの絶縁性能が低下すると、任意のポイント間にわずかな漏れ電流が発生します。
結果的にギターサウンドの音が漏れ出してしまい、元気の無い弱い音になっていきます。
繊細な倍音は大幅に削られてしまいます。
回路ボードの交換が必要です。
Fig.1, 2, 3 で見てきたように部品も配線も全て交換が必要です。
まず古いボードを取り外し、カビの付いたシャーシーを消毒・クリーニングします。
新しい回路ボードを作製し、その上に新しい部品と新しい配線を付けてからシャーシーに取り付けるという工法が効率的です。
受け入れ検査の結果を元に以下の5つの作業方針を決めました。
回路ボードの配線を全て外し、ボードをシャーシーから撤去しました。
処理が遅れるほどシャーシー内にカビが増えていきます。
続いて金属シャーシーに付着している大量のカビを消毒・クリーニングしました。
この作業を怠ると、新しいボードにもカビが伝染していきます。
電源ケーブルも過去に交換されていました。
芯線がほそく、グランド端子も付いていない2端子のものです。
安定電源の確保と安全の観点から、一回り太い AWG 16 芯線を使い、グラウンド端子の付いた3端子の電源ケーブルに交換しました。
バイアス回路の載っている小型のボードにも白いカビが付いています。
こちらは部品点数が少なく、部品を全て取り除き、ボードを消毒・クリーニングしました。
新しい部品を搭載し、配線しなおしてバイアス回路のオーバーホールをしました。
回路はバイアスの深さ調整が効くブラックフェース回路に MOD しておきます。
(1) アンプのシャーシーに収まるように切り抜いた型紙を作製します。
(2) 型紙に合わせてボード素材を切断したものを 2枚作製します。
一枚は回路ボードでもう一枚は下に敷く絶縁ボードです。
(3) 型紙の上に回路を書いていき、部品レイアウト図を完成させます。
AB763 回路を参照しつつも、そっくりコピーするのではなく、
より発振の起きにくいレイアウトに図にします。
部品の向き、配置、配線の長さを計算しながら最適化を行いレイアウト図を完成させます。
(4) ボード素材をレイアウト図に合わせ、はんだ付けをするリベット穴を空けます。(約80箇所)
(5) ボード素材の穴にリベットを打って完成です。
出来上がった回路ボードへ抵抗、コンデンサー、配線材を取り付けていきます。
以下のことを考慮して部品装着します。
・ ブラックフェース AB763 の回路構成にし、倍音豊かな回路にします。
受け入れ検査( Fig1.)で見つかった AA763回路の抵抗値はただしくAB763回路の値にします。
ブラックフェースらしい音が出るようにコンデンサーのタイプを適正に選択します。
・ 配線材料の適正な選択をします。
- 回路の部位により流れる電流に応じた適正な太さの配線材を選択します。
- 信号線には布巻きの単芯線を使い音の迫力を出します
- 高圧線にはベルデンのテフロン線を使い、信号線への短絡や電圧寄生しないようにします。
- グラウンド線には純銀の単芯線を使い、ノイズを低減しつつ、音の立ち上がりを上げます。
・ シルバーフェースに比べ倍音が増加する分、発振しやすくなります。
近づけると発振しやすくなる配線間の交差を避け、表側だけでなく裏側にも適正に配線します。
Fig10. に古いボードと新しいボードの比較写真を掲載しました。
消毒とクリーニングの終わったシャーシーの上に絶縁ボードを載せます。
その上に部品装着の済んだ回路ボード本体を載せてネジ留めします。
回路ボードから這わせた配線とポットを接続します。
次に回路ボードの配線と真空管ソケットを接続します。
ヒーター配線にはおよそ 2.7 A( デラックス・リバーブの場合) もの大きな電流が流れます。
配線材は最低でも AWG 20 ( 芯線の直径0.8mm) 以上の太さがないと、異常発熱し、焼き切れてしまいます。Fig.12 に示したように当アンプには
AWG 22 (芯線の直径0.6mm) の細い配線が付けられていました。
十分な太さ AWG18 ( 芯線の直径 1mm )のベルデン製ワイアーを使い配線しなおしました。
アンプの中で最もノイズと発振に敏感な部分は以下の2種類の配線です。
a) Input Jack からプリチューブまでの配線
b) Volume ポットからプリ・チューブまでの配線
Normal チャンネルと Vibrato チャンネルごとに a) と b) があり、
全部で 4箇所の配線がノイズと発振に敏感です。
この部分にシールド・ケーブルを使ってやるとノイズと発振に強くできます。
しかし、市販の一般的なシールド・ケーブルを使うと、ギター信号の高域のロスが生じます。
そのため、工夫が必要となります。
ギャンプス自家製のシールドケーブルを使い、高域のロスを防ぎつつ、
ノイズや発振に強い配線にします。
Fig 13 に写っている白く太いケーブルが自家製シールドです。
スピーカーの端子位置がアンプ部の電源トランスに最も近接した向きになっています。
この位置はトランスで発生する磁気の影響を最も受けやすく、スピーカーから変な音がしたり、発振したりします。
オリジナルのスピーカーから Jensen に交換されたときにこの向きにおかれたものと推測します。
トランスの磁界の影響を最もうけにくい位置にスピーカーを回転させて取りつけ直しました。
オリジナルのスピーカーケーブルは劣化が激しく、交換の必要があります。
全てリフレッシュした回路の良い音質を忠実にスピーカーに伝えるにはここは WE ケーブルです。
AIW 社製 WE スピーカーケーブルを使い、新品のジャックと F-Cap, それに 3M の端子を使ってスピーカーケーブルを作製し、取りつけました。
回路を全てリフレッシュしたため、バイアス調整を行なう必要があります。
バイアス調整の目的は、
パワーチューブにかかっている「プレート電圧の値」によって計算式で決まる、
「パワーチューブ内を流れる電流値の適正な範囲」に収まるようにすることです。
プレートにかかっている電圧の大きさによって電流値の適正な範囲は変動します。
電流値の適正な範囲はパワーチューブのタイプによっても異なります。
適正な範囲をずれるとパワーチューブが早く壊れやすくなります。
Fig. 15 のように、必要な機器を使い、バイアス調整を行ないました。
その後、試奏をしました。
試奏の結果
☆ 音圧が改善し、サウンドの曇りがとれました。
☆ Fender のブラックフェース・アンプらしいブライトな高域、豊かな倍音と表現力が蘇りました。
☆ Reverb と Vibrato 機能も正常に働いています。
作業を終えてお客さまにアンプを返送いたしました。
以下はご返信いただいたメールの抜粋です。
----(1) アンプ返送直後にくださったメール--------------------
ギャンプス 様
昨夜開梱し、確認いたしました。
顧客満足度という言葉は、すでに使い古されていますが、
ユーザーの立場に立った詳細なレポートには頭が下がりました。
手間を惜しまず作業下さり、本当にありがとうございました。
今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。
--------------------------------------------------------
----(2) 2013 年 8月に頂戴したメール-----------------------------------
徳田様
ご無沙汰しております。
仕事がバタバタと忙しく、バンドのおやじ連中ともなかなか時間が合わず、
メンテしていただいたデラリバも自宅で小さな音しかだせませんでしたが、
仕事も一段落つき、昨日やっとスタジオで大音量を出すことができました。
キラキラした中に芯のあるフェンダーならではの音を復帰させていただき
とても満足しています。
倍音の出方がとても心地良く、リバーブのかかり具合も良くなったように感じます。
低音もとても豊富で、歪む一歩手前の音は僕の好み的に絶品です。
今回は本当に有難うございました。
銀パネチャンプのリフレッシュ作業も終わりに近づき、ワクワクしています。
今後ともよろしくお願いいたします。
--------------------------------------------------------------------
ギターアンプ修理のページへ戻る
ギャンプスのホームへ行く