西成スピリット


1.序


 地元の話などを書いてみようと思います。地元というのは西成です。スゴいでしょ。多少は話のネタになりそうな場所ではありますな。とりあえずニシナリスピリッツと題して、僕の頭の中に残っている西成を書いてみます。実家へ帰る機会でもあれば今度はニシナリボディ、とでも題して現在の西成を体現して書いてみようと思います。


2.飛田T

 いきなり濃い場所からの紹介となったが、この界隈は北を阿倍野区に接している、つまり、西成の北端にあたるから北から追うというルールなら別段ここから紹介してもおかしくはない。でもまあ米朝一門会を見に行って最初に枝雀さんが出てくるほどの濃さではあるが。
 ここはいわゆる昔の赤線地帯というやつで、戦後に廃止されるまでは政府公認の売春宿だった。ところで大阪に十三とかいて「じゅうそう」と読む地名があるのはご存知だろうか?関西の方かツウの方は知っていると思うが、それではこの地名の由来は?と聞かれて知っている方はそう多くはないと思う。これは遊郭を配置する際、西成郡の飛田を「一条」とし、以下そこから離れる毎に二条、三条と定めて、その十三番目に位置するから「十三」である。ただ、なんで「じゅうそう」などというひねくれた呼び方をするのかはわからない。港区にある「九条」もその名残である。昔はここへ身売りされた女たちが春を鬻いでおり、彼女たちは楼主に買われた商品、奴隷であった。逃亡を防ぐために南を塀で囲い、北は上町台地を利用して壁とした。往来は門で行うが利用できるのは客だけで、妓たちはここから表へ出ることはできない。営業時間以外門は閉ざされていた。今も飛田にはこの牢門の跡が残っており、境界を注意して見れば高さ3m程の塀と、そこに門があったことを窺わせる蝶番の跡などを見つけることができる。大門のあったであろう場所には交番がある。なにか大きな事件があったときのために設置されているのであろう、その他諸々郭内の治安を維持しているものと思われるが、目と鼻の先にある繁華街で連日連夜、数十軒もの店で繰り広げられている

売春防止法への抵触行為

は取り締まらないのだろうか。それをいっちゃあ「野暮」ということなのだろうか。


3.飛田U

 郭内は縦横に区画されており、道の左右には料理屋が軒を連ねている。規格でもあるのか、同じサイズの白地に黒の墨文字で書かれた看板がズラリと並んでいる。宿は玄関が大きく開け放たれており、玄関に女性が二人並んでいる。ひとりが鑓手婆(やりてばばあ)と呼ばれる呼び込みで、もうひとりが男の相手を務める方である。大方年寄りが鑓手婆で若いのが妓なわけだが、中には二人とも年寄りでどっちがどっちなんだかわからない店もあるので注意しよう(←誰に言ってるんだ)。ちゃんと数えた訳ではないが店は百軒やそこらある、一軒一軒見て廻って気に入った子を見つけたらその店に入る、というシステムである。玄関で金を払うと部屋へ通される。室内で行われるのは紛うことなき売春であり、いわゆる「本番系」というやつである。が、表向きは多分、「客は料理が目的で入って来る、入り口で貰う金はチャージである。女が1人付くが呑み屋で女が付いても別段不思議はない。客と話しているうちに意気投合することもあろう、気分が盛り上げれば、店の中でそうなってしまうこともあるかも知れない。しかし、これは双方合意の上でなされたことなので自由恋愛である」というわけで、これは売春ではないという主張になるのだろう。現にこのあたりは「飛田料理組合」というのが正式名称だから、食事をする場所なのである。しかし問題はこういう状況に100%なっちゃうってことなのだが。ただ、売春というのは法的に線引きがとても難しい。例えばコンパの後盛り上がってその場で知り合った2人が飲みに行き、男が指輪をプレゼントしてその後ホテルへ。これが売春かどうかというのは、あくまで法的にだが判断の難しいところだ。だから売春は「禁止」できないので、売春「防止」法という名前になっているのだろうか。
 料理屋(?)がズラリと並んでいる中に、なぜか歯科が一軒と、射的場がある。射的場がある理由ははっきりわからないがここは男の社交場だったわけだから、ある種のちょっとしたお遊びとして存在しているのだろうと思う。ひょっとすると景品に割引券かなにか貰えるのかも知れないが。 同じサイズ、同じ背景色、同じフォントで書かれた屋号の看板を掲げた同じような造りで、同じような古さの料理屋(?)がズラリと並んでいるこの不思議な不思議な飛田という場所は子供の頃、一体どんなところなのだろうと思っていた。あのあたりの学校に通う小学生にとって「生まれて初めて訪れる神秘的な空間」が、飛田なのではないかと思う。3、4年生あたりになると、こういう噂が流れ始める「あそこに行くと、乳を揉みながらごはんが食べられるらしい」当たらずとも遠からじといったところか。


3.飛田本通商店街

 飛田の交番からほんの少し南に行くとあるのがこの商店街である。たばこやと焼肉屋に挟まれて始まる。少し進むと右手に「タイガース」というパチンコ屋があり、僕がいた頃はこの店のスロットに「モーニング」の入った台が設置されていて、その台にたまたま当れば千円で5千円分ぐらいのメダルが出て来るので、それを狙うために開店前から並んだりしていた。柄の悪い場所だが、秩序の乱されることはなく割り込み等は意外にない。

一人を除いては

開店ギリギリに来て後方から人だかりをかきわけ、最前列のシャッターまで到達するという非常識極まりない人がいる。そんな行為などここでは言語道断なのだが、この人だけは許されるのである。「どけっどけっ!」という感じでその人が後ろから体をガンガンぶつけて最前列へ。そして鼻をシャッターに擦り付けんばかりに近づき、あとはひとしきり貧乏ゆすりである。やがて開店。がくん!とシャッターは初動音を響かせ、ガタガタと音を立てながらゆっくりと自らを巻き上げてゆく、人が横になれば通れるかどうかの高さまでシャッターが巻き上げられたそのとき、

その人は、ばっ!と体を伏せ、腕を腋でたたみ、ざっざっざっざっ!と、ほふく前進で店内へ潜り込むのである

2番目に人が店内に入るのはせいぜいシャッターが腰の高さまで来たときだから、その間にその人は自由に店内を徘徊し、簡単に「モーニング台ゲット」である。一緒に並んでいる(極道+遊び人)÷2のような人がよくつぶやいていた
「わしゃ昔からホンマにロクでもないことばっかりしてきたし、悪さもしたけど、あいつには叶わない」
周りからは
「あれ(ほふく前進)だけは絶対にようせん、尊敬する」
の声も聴かれる。いくつもの修羅場を潜り抜けて来た人々を体当たりでどかして最前列を手にし、皆の狙うモーニング台に常にトップでありつくという、この非道な行為が許されるのも、一重に彼の素晴らしいパフォーマンスによるものだろう。僕も最初割り込むシーンを見て憤慨したが、このほふく前進を見て以来「彼はモーニングの神だ」と思うようになり、以後この人がなにをしても逆らわないようにした。こういうことができる人はうらやましい、うらやましいけど、

絶対になりたくはないです

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