うか

 涼しい夏は過ぎましたが残暑厳しく、暑くなってまいりましたのでちょいとばかり涼しくなる話を書こうかと思います。こういう風に書き出しますと、心霊的なお話が始まるのでは?とお考えの方も多いと思いますが、そうではありません。空想の世界より、現実の方が、それはそれは背筋も凍るようなことが、起こるものなのでございます。


※本当に気持ち悪い話ですのでそういうのに弱い方はお読みにならない方がよろしいかと思います


 あれは、中学1年生の春の頃の話。わたくしは友人と連れ立って、川へ釣りへ出かけようと約束したのでございます。とくに目的の魚はなく、ただ川魚を釣ろうというだけの、単純な釣りの計画だったのでございます。針はハエスレという、細い細い、返り(釣り針の先の、引っ掛かった魚の口が外れないように折り返してあるところ)すらない小さな針でした。そしてエサは、蛆虫でございます。はじめにエサの話を聞いたときはわたくしも冗談かなにかだと、また、からかわれているのかと思いましたけれども、本当に蛆虫がエサなのでございます。釣具屋へ行きまして、クリーム色の米粒のような蛆虫が50匹ほど入っております小さなビニール袋を一袋購入いたしました。竿は専門的なものが必要とのことで友人に借りることになっておりました。全ての準備が整ったところで床に入り、あくる日の釣りを楽しみに、眠りに就いたのでございます。翌朝。空は暗く重く、既に雨が降っておりました。中止か決行かを確認するまでもなく中止です。楽しみにしておりました釣りが中止になり、がっかりしたことはいうまでもありません。
 さて、それから数ヶ月経った夏。今度は海へチヌ(黒鯛)を釣りに行こうという計画が持ち上がりました。嬉々として釣道具入れを開け、所有しているチヌ用の仕掛けの残数を確かめてようと、おもりが陳列してある中蓋を外したとき、目に入ったものは、あの、前回中止になった川釣りのときに購入した、えさの蛆虫が入った小さな袋だったのでございます。川釣りに行こうとしたのは春の話、今は夏でございます。


全匹、蝿にかえっておりました。


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