小村の部屋は居心地がいい。階下から聞こえるおじさんたちの賑やかなお喋りも、小村と他愛もないことで騒ぐのも、誰も咎めない。
いつか、失くしてしまう場所だと判っていても、呼び出されれば応じてしまうのは、小村に甘えているからで。
逃げ出さなくては。小村を傷つけてしまう前に。
この天国に、カギがかけられてしまう前に。
カギのかかる天国 1
「宮原、お前、芦川と三谷とやっちゃったってホント?」
「…なんで小村がそれ知ってるの?」
判ってて聞いてみた。小村がそれを知るルートは三谷からしかないからだ。
あのふたりが恋人同士だってことは承知の上で身体の関係を結んだけれど、友人としての関係も崩れてはない。間に割り込む気もさらさら無いわけで。
すました顔をしていたら、小村がしがみついてくる。
恋人にするような情緒のあるものじゃなくて、親が子供を抱きしめるような、守る腕で抱きしめられる。
「お前、なんで、ダメな方へ行っちゃうワケ?」
「ダメってワケでもないんだよ。あいつらは、互いのことで精一杯だから。俺のことは本気じゃないから」
「そ、そういうコトって、ス、スキだからやるんじゃないのかよ?」
「好きじゃなくてもできるだろ」
腕を突っ張って、小村から逃げようと試みるが、両の腕が掴まってしまった。
その分、開いた隙間を広げようと身を引くと、下がる踵は壁際に追い詰められる。
「宮原はどうなんだよ!あいつらじゃなくて、お前は」
「言ったとおり、好きじゃなくてもできるんだ」
乱暴に唇をふさがれる。肩を押さえつけられて、身動きできないままで。
技巧も何も無いけれど、小村に湧き上がった衝動がどういう種類のものなのか、すぐに解かってしまうキスだった。
「オレは、お前のことスキだからな。お前のこと、傷つけたりしない」
「傷つけていいんだよ、小村も」
胸を押して抵抗すると、今度はあっさり離れた。
赤く染まった頬と湿った瞳に見つめられて威圧される。耐えられない、落ちそうだ。
小村は本気だ。俺だけを求めてる。心も体も。
あげてもいいよ、全部。
でも、これだけは、言わないと。
「俺も、小村を必ず傷つける。誰も一番好きにはならないから。それでも」
いいのか?と続く言葉は、また強引なキスによって奪われた。
ワタミヤに続く〜