残暑の朝




「おはよー、アヤちゃん。美鶴は?」
「おはようワタルおにいちゃん!上がって上がって。それから、おにいちゃんを何とかして」

 芦川家にお邪魔しながら、いつもにまして可愛らしいアヤちゃんを観察する。
 髪はツインテールではなく、後ろの高い位置に花模様のアクリルの髪留めが飾られてる。白いワンピースには薄い水色の花が袖に、裾に、咲き乱れてる。
 女の子から少女に、脱皮したというか、羽化したというか。
 叔母さんは土曜日の今日も仕事。玄関に靴が無いので既に出かけてるんだろう。
 美鶴は出迎えにも来ない。
 昨夜、家に戻ってるから遊びに来いよ、みたいな電話を貰ってたから来るつもりだったとはいえ。
 今朝になってアヤちゃんから、今すぐ来て、というメールに驚いてチャリンコかっ飛ばして来てみれば。

「アヤちゃん、今日は出かけるんだよね?」
「うん。国立科学博物館、夏休みの自由研究に。お友達もいっぱい一緒に行くんだよ」
「付き添いが問題だ」

 リビングのソファにどっかり腰を据えながら、美鶴は不機嫌MAXで言い放つ。

「私、もう6年生だよ?本当は付き添いなんてなくても平気なんだよ?でも今日は下の学年の子も一緒だから、わざわざ付いて来てくれるんだよ?」
「科博なんて、モロに宮原の趣味じゃないか」

 ははあ。宮原が一緒なのか。
 そういえば、アヤちゃんは宮原の弟妹たちとも仲がよかった。
 美鶴の100倍は人付き合いの良いアヤちゃんだから、そこそこの人数で博物館まで行くんだろう。それをまとめることができる年長者…なら、宮原は適任なんだけど。

「それでオシャレなんだ、アヤちゃん」
「えへへっ!今日は髪を下ろしてみました!」
「気に食わない。やっぱり俺も行く。亘も行くぞ」
「え?」
「ダメ!サトウくんも来るし、他の男の子も来るから!」
「だったらなおさら」
「おにいちゃん、無言で威圧するから絶対ダメ」

 ああ、そのサトウくんという彼は、かすが共進ゼミで2番の子だったっけ。(アヤちゃんが1番で)
 アヤちゃんにコクった末に、マンションのこの部屋まで送り届けたら、美鶴から絶対零度の微笑を浴びせられたとかいう。
 こんな怖いおにいちゃんがいるなんて、普通考えないよなぁ。ちょっと同情する。

「美鶴はアヤちゃんが心配なんだよ。かわいいから」
「ありがとうっワタルおにいちゃん!ワタルおにいちゃんも大好きだよ」
「僕もアヤちゃんが大好きだよ」
「み、つ、る、おにいちゃん?」

 ふて腐れてそっぽ向く美鶴に、きゅっと抱きついた。

「おにいちゃんも大好きだよ」

 美鶴の頬が染まる。上手いな、アヤちゃん…。
 パッと身体を離すと、長めのワンピースの裾が絶妙な感じでひらっとする。
 正直、可愛い。美鶴も綺麗だけど、同じ顔ながら別種の美がそこにある。

「まあ、宮原の理性を信じてもいいんじゃないの?絶対手を出したりしないって」
「それはそれで傷つくなぁ。一生懸命オシャレしたのに」
「そうだ!アヤに惹かれないなら、宮原も男として終わりだな」
「…どっちだよ、美鶴…」
「…どっちでも気に食わないんだよ!」

 複雑な兄のココロ。ちゃんと解かってて手に負えない妹。

「あ、そろそろ出かけなくちゃ。バス停に8時半集合なの」
「遅くならないように帰ること!判ってるな?」

 厳しい兄に、妹は苦笑混じりにうん、と頷いた。
 そしてこっそり僕の耳元で「ワタルおにいちゃんが来てくれてよかった」と囁いた。

「いってきまぁす!」

 手を振るアヤちゃんを玄関まで見送るのも僕。

 がちゃん。

 オートロックが落ちてリビングへ戻ると、美鶴はさっきとは打って変わって、ソファの上でひざを抱えてる。
 隣に座っても、目を逸らす。

「みつる」

 強引に肩を押さえつけて、口付ける。
 鈍い反応を理解しながらも、舌先で唇に触れ歯列をなぞり、熱い美鶴の舌に絡める。
 やがて溢れてくる唾液を、美鶴がこくりと嚥下して、ようやく離した。

「昨日の電話で…こーゆーことがしたかったから、僕を呼んだんだろ?」
「そう、だけど」
「まさか、アヤちゃんが宮原と出かけるなんて思ってなかったんだよね」
「そうだよ」
「淋しいんだよね」

 ギリッと睨まれる。
 僕は気にせず美鶴を抱きしめた。互いの顔が見えないように。きっと美鶴は顔を見られたくないから。
 背に廻した腕にぎゅっと力を込めて、美鶴を放すまいとじっとしていると、やがて美鶴もそっと、僕の背に手を廻す。
 ふわりとやわらかな髪が僕の肩に落ちた。

「笑ってもいいぞ」
「笑わないよ。美鶴の淋しい気持ちは僕が貰っちゃうから」
「バカ。お人好し」
「美鶴が大好きだよ」

 耳元で、クスリと笑った。くすぐったい吐息。

「亘が来てくれてよかった」

 アヤちゃんも同じことを言った。兄妹円満の秘訣だな、僕は。
 美鶴の腕から力が抜けるタイミングを見計らって、もう一度、美鶴をソファに押さえ込んで口付けた。

「それじゃ、しよっか」

 アヤちゃんが帰ってくるまで。
 美鶴を淋しさ以外のもので、埋めてあげる。

 答えに、美鶴は眩しそうに眼を細めた。





一旦おわり。→数時間後…









朝の8時半から夕方まで、やるんですね。(笑)
いいじゃん、夏休みももう終わりだよ。

えろはありませんよー。多分。
どうせ続いてもやってるだけだし。(私の文って即物的)

国立科学博物館には私が行きたいんです!連れて行け宮原!(無理です)

2006.08.23


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