前に書いた高校生設定を引き摺っています。
・中高一貫校の高等部一年生。
・美鶴は寮生、同室は宮原氏。亘はチャリンコ通学。
・夏休み、宮原が帰宅してるのをよいことに(?)亘が寮に来る。

今回ビミョーにえろは無しです。文章に色気が欲しい今日この頃。














星を読む人





8月12日



●明け方。


 部屋の扉が開いて誰かが入ってくる。その気配に美鶴がまどろみから抜けると、亘はまだ手の中で眠ってる。
 入ってきた人物はエアコンを切って、よどみない動作で窓を開けた。部屋の明かりはなくても、もう十分に明るい、目覚めたばかりの今日。

「…みや、原?」

 美鶴は、珍しいほど慌てて自分たちを顧みる。美鶴は、服を着てる。亘は?上半身は着てないけれど、下はちゃんと穿いてる。

「おはよ」

 宮原は、美鶴と亘がもつれるように転がってるのを軽く一瞥して、「どうでもいいけどさぁ」なんて呟いて、本当につかれきったようなため息を漏らす。

「何時?」
「午前5:30、今から寝るから起こさないでくれよ」

 眼鏡を外しながら宮原は二段ベッドの梯子を上っていく。
 きし、きし、とさり。身体を投げ出して転がった、ようだ。

「…もぉ、あさー?」

 緊張が解けない美鶴に気付いた亘が、ぼんやりと覚醒する。

「まだ早いよね…?寝ようよ」

 寝ぼけたまま亘がキスしようとするのを、美鶴は手のひらを広げて亘の顔をペチっと押さえ、それ以上の接近を阻止した。



●午後。


 寮のフリースペースで他の寮生と混じりながら、美鶴と亘は英語の課題をやっている。(主に亘の発音を美鶴が厳しくチェックしている)
 寮生の間を縫って、宮原が声をかけてきた。髪の寝癖を水で直そうと、濡れたままの頭で。

「今朝、ごめん」
「いいけど。今日戻るとは聞いてたけど、早朝とは思わなかった」

 ふたりの仲を知っていて、それなりに納得してる宮原。
 美鶴のベッドに転がってるのが亘じゃなくて女の子だったら眠気も吹き飛んだだろうと思う。それくらい、馴染んでしまった。
 美鶴は平然としているが、亘はそわそわと落ち着かない。朝、起きたら宮原が部屋にいて、寝コケまくってる自分たち(正しくは亘)を見られたんだから、何か言い訳をしておきたいところ。
 けど実際は、亘がはっきり目覚めた頃には宮原は熟睡モードに突入していたり、言い訳も何も、これ以上惚気られるのも宮原には疲れる話だったりする。ので、亘が何か言い出す前に、宮原が切り出した。

「三谷、今日家に帰るの?」
「えー、だって宮原、寮に戻ってるんだろ?」

 正直すぎる返答に、美鶴が肘で亘を小突く。

「夜はいないよ、部活だし。ってその部活に誘いに来たんだ。今晩、天体観測しない?」
「天体観測!?…する!したい!」

 嬉しそうな反応を見せる亘と、対照的に冷める美鶴。

「地学部だっけ。化石掘りと岩石削りだけじゃなかったんだ」
「あのなぁ。気象も天文もやるんだよ。部の顧問に聞いたら寮生なら参加可だって、三谷も寮に泊まる許可証持ってるよね?多分OKだから」
「観測って夜通しだろ?」
「うん。学校の屋上でやってる。休みたければ部室か寮に戻ればいいし。雲っても観測止まっちゃうからね」
「天気、かあ。今夜は大丈夫だよね?」
「三谷は晴れ男だろ。お前の周りってお天気ばっかり」
「ねえ、美鶴、一緒にやろうよ。僕、星見てみたい」

 あくまで美鶴と一緒に、というところが亘らしい。美鶴のいまいち乗り気じゃない理由を察しながら、宮原ももうひとおし。

「今夜、ペルセウス座流星群の極大なんだ。ええと、流れ星がいっぱい落ちるよ」
「流れ星!?見たい!僕見たことない!本当に見れるの?」
「昨夜は2時から3時の1時間で35個見たよ。きっと今夜の方がすごいよ。部員は流星観測にまわるから望遠鏡も貸せるし」
「わ、本当にいいの!?」
「部員はみんな昨夜のうちに望遠鏡使いまくったんだよ。来るよね?ふたりとも」
「行く。よね、美鶴」
「…行きたいんだろ?」

 美鶴が落ちた。宮原が満足して笑む。

「俺、部室行ってるし。6時くらいに食事済ませて屋上に来てよ。望遠鏡の使い方とか星図の見方説明するから」
「…そういえば、宮原、眼鏡なんだ」
「遅いな、亘」
「寝不足でコンタクトが辛いんだ。観測中に落とすとイヤだしね」

 ふーん、と感心してる亘の手の甲に、美鶴のシャーペンが突き刺さった。



●宵の口。


「…もっと簡単なの、無い?星座早見盤とか」
「そんな、つまらない…これで十分だよ」

 宮原から手渡されたのは8等級以上の恒星が入ってる全天恒星図。黒い点々がいっぱい。ちょっとハイレベルっぽくて、気後れする亘。美鶴はそれを見つめ「説明して」と宮原を促した。星図の黒点を宮原の指がなぞっていく。

「見えるのは北天と、春の終わりから冬の初めまでの星座。暮れたら天の川が見えるよ。夏の大三角は七夕星ってわかるよな?カシオペアから北極星を探して、秋の四角形、オリオン座の冬の大三角まで、12星座はさそり座からふたご座まで」
「そんなに見えるの!?すごいなぁ。僕でもわかる?」
「教えてやるって」
「…理科ヲタクめ」
「やなの?芦川」
「別に」

 つばぜりあいに軽く散る火花。珍しく喧嘩を吹っかけてるのが美鶴に見える。

「ねえ、宮原と美鶴って仲悪いの?」

 ふたりが顔を見合わせ、次いで亘を見る。美鶴の視線には棘が随分入ってる。宮原のそれには、まじまじと観察する様子がある。

「…三谷、お前無自覚か。苦労多いな、芦川」
「うるさいな。突っ込むな」
「あれ?本当は仲いいの?なんで?」
「ばーか」

 美鶴の雑言に、宮原が顔を背けて笑いをこらえた。


 日暮れる前に、望遠鏡を組み立てる。
 三脚を立てて水準器で水平を保ち、赤道儀を乗せる。北に極軸望遠鏡を向ける。
 ウェイトをぶら下げて、鏡筒とのバランスを取る。
 ファインダースコープを合わせているうちに、太陽は遠くの山裾に降りていった。
 薄明、天文薄明。
 薄い月に地球照が浮いて、試しに覗いたレンズの中で、眩しい白と灰色の対比が美しかった。






つづく。








学校は都会じゃないのか!?(天の川?は?見えるの??)
ああもうこれ幻想だから。学校の屋上は幻界です。ということで。(汗)

今年のペルセは観測条件とても悪いです。だからこれは今年の話じゃないですよ。

2006.07.30


ブレイブindexへ