St. Valentine's Day
〜カノジョの場合〜
4話

手にしていた鞄を机に放り投げあたしはベッドに転がった。
あーあ、馬鹿みたい。
一人で浮かれちゃって。
よく考えたら、好きとか付き合ってくれって言われたわけじゃ無いじゃない。
ただ単にあいつがダブルデートの相手に気を使ってくれただけ。
同じバイトの人間だしね。
当たり前よね、ガウリイみたいな大人が、あたしみたいなお子様を相手にするわけ無いじゃない。
ガウリイに似合うのはもっと・・・
さっきの光景が頭をよぎり、未だに痛む胸を押さえた。
ほんとにあたしって馬鹿だ・・・
今ごろになってこの胸の痛みの理由がわかるなんて。
壁の方を向いて身体を丸めた。
バイトも辞めよう。
どうせ、3年になったら殆ど出来ないんだし。
いい機会だから。

コンコン―――

「リナ?」

ねーちゃんだ。
でも、あたし返事もしたくない。
眠った振りをしよう。
眠ってしまって、明日になれば忘れられる。
姉ちゃんはすぐに立ち去るかと思ったのに、ドアの外で二人分の声がする。
あの声はアメリア?

「リナさん、入りますよ!」

一方的に告げると、部屋のドアを開けてアメリアが入ってきた。
あたしは慌てて布団に潜り込む。
今は誰にも会いたくない。
誰にも顔、見せたくない。

「リナさん」

すぐ側で声がした。
お願いだから少しだけ一人にして。
布団を押さえ、目を閉じる。

「こんなのリナさんらしくないです」

あたしらしくない?
何が?
メソメソするのが?
それとも人を好きになることが?
そんなのあたしに似合わないって知ってるわよ。
でも、少しだけ放っといて。
明日になったら元のあたしに戻るから。
あいつの事忘れるから。
―――あいつの事思い出させないで。
益々意固になって布団を押さえるあたしにアメリアが畳み掛ける。
「始めから勝負を捨ててしまうなんて、リナさんらしくないです。
ちゃんと相手の人にぶつかって、それでもダメなら仕方ないですけど。
ガウリイさんに言いもしないで諦めるなんて、そんなの逃げてるだけじゃないですか。
わたしはもしゼルガディスさんに好きな人がいたとしても、ちゃんと自分の気持ちは伝えたいです」
逃げてるだけ・・・か・・・
そうかもね。
「アメリア・・・」
やっと布団から顔を出したあたしの目の前で、アメリアはベッドに足をかけ、握り拳を作った。

「大体、邪魔ものは全て蹴散らしていく。
それでこそ、リナさんです!!」

「アメリア・・・」

あんたねー。
あたしは思わずベッドに突っ伏した。
この子はあたしにハッパをかけてるんだろうけど、それじゃあ日頃のあたしが・・・
まあ、大筋間違いじゃないんだけど。
クスリと笑みがこぼれた。
「リナさん?」
突っ伏したまま動かないあたしに、アメリアが恐る恐る近づいてくる。
「ありがとね、アメリア・・・」
あたしの小さな声にアメリアが笑った気配。
本当にありがとう、アメリア。
でもね。
これだけで終わると思ったら大間違い。
「なーんて、言うわけないでしょう。
あたしが何だってー!!」
あたしはベッドから跳ね起きると、アメリアを捕まえそのこめかみに両方の拳をねじり込んだ。
「痛い、痛いですぅ」
「当たり前よ、痛いようにしてるんだから。
それにこっちの方があたしらしいんでしょ?」
「リナさん、顔が怖いです」
「余計なことを言うのはこの口かなぁ?」
「ぴゃー」

ほんとにね。
あたしらしくなかったわ。
あんたの言う通り、せめてあたしらしくいきましょ。





To be continued...

2001/2

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