St. Valentine's Day
〜カノジョの場合〜
3話

観覧車の出来事を思い出して一人赤面するあたしをアメリアがつつく。
「顔が真っ赤ですよ。やっぱり何か・・・」
「う、五月蠅いわよ」
あたしは異様に目を輝かせるアメリアを押しのけた。
「怒鳴るところが益々怪しいです〜」
押しのけられながらもアメリアは諦めない。
尚もしつこく食い下がってくる。
「もしかして、リナさんはガウリイさんの事が嫌いなんですか?」
「そんなこと無い・・けど・・・」
ポンとあたしの作ったお弁当を嬉しそうに食べる顔が浮かんできた。
あーもう、散れ散れ。
ブンブンと頭を振るあたしをアメリアが不思議そうな顔で見ていた。
「じゃあ、いいじゃないですか」
「だって・・・」
だって、さ、あいつの周りにはいつも綺麗な大人の女性ばかり。
あたしだって造り自体は負けてないと思いたいけど、如何せん年齢と外見はどうしようもない。
からかわれたと思いたくないけどあたしみたいなお子様に。
本気・・・なのかな。
ガウリイとはあれ以来会ってない。
ちょうどテスト前になっちゃってバイトは休みだし、電話は掛かってこない。
待って・・・くれてるんだろうか・・・
ふとした拍子に浮かんでくる顔。
なるべく考えないようにしているのに。
「リナさぁん、一緒にチョコあげましょうよ〜」
耳元でアメリアの声がした。
―――チョコレート。
あげなかったらがっかりするかな。
あげたら喜んでくれるかな。
あげたら・・・返事した事になるのかな。
ううっ、知恵熱が出そう。

「ガウリイさん、喜びますよ〜」

チョコあげたら・・・笑ってくれるかな。
またあんな風に笑ってくれるといいな。

「ね、リナさん」

とりあえず。
「・・・テストが終わったら、チョコの材料買いに行こうか・・・」
「はいっ♪」




これで買い忘れは無いわよね。
あたしとアメリアは家路を急いでいた。
色々買い込んでいたもんだからちょっと遅くなっちゃった。
連絡はしてあるけど、早く帰らないと姉ちゃんに怒られちゃう。
お互いの手にはチョコの入った袋。
ただし、アメリアが持っている袋にはあたしが買った5倍ぐらいの量が入っている。
どうするつもりかと思ったら今日から練習するんだって。
ははは・・・この間の手つきを見れば、ね。
「リナさんは何を作られるんですか?」
「ん〜、お酒を使ってトリュフをね。
アメリアは?」
「私はチョコレートケーキに挑戦します!」
「・・・・・・・・・
・・・頑張ってね・・・」
「その沈黙はどぉいう意味ですか!」
どーもこーも、それ以外の意味は無いんだけど。
握り拳を振り上げあたしを殴る振りをするアメリアを軽くかわす。
「まあ、まあ、怒らないの」
ちょっとの間アメリアはあたしを恨めしそうに見ていたが、すぐにその表情をコロッと変えた。
「あ!リナさんコンビニに寄っていきませんか?」
アメリア指さしたのはあたし達がバイトしているコンビニ。
二人でじゃれているうちにこんな所まで来てたんだ。
「ゼルちゃんが居るかも知れないもんね〜」
「違いますよぉ」
今度は飛んできた袋をバックステップでかわした。
今のはちょっと怖かったぞ。
大量に荷物が入っている所為で凶器と化した袋を本人は無意識に振り回すもんだからあたしはいい迷惑。
「リナさん早く行きましょう」
またもや袋をブンブンと振り回し小走りでコンビニに向かうアメリアの後ろを付いていく。
もしかしたら、ガウリイが居るかも。
幾らガウリイでもあたしが持ってる袋を見たら気が付くわよねぇ。
何か言ってくるかな?
あたしどんな顔をすればいいんだろ。
あたしはかなりゆっくり歩いていたはずなのに、アメリアはまだコンビニの外にいた。
ちょっと困ったような顔でコンビニの中を窺っている。
どうしたんだろ?
「アメリア?」
「り、リナさん」
あたしが声を掛けるとアメリアが飛び上がった。
変な子。
「中に入らないの?
あ、ゼルが居なかったの?」
「いや、リナさん、あの・・・」
あたしの前に立ちふさがるアメリアを押しのけて、中を覗く。
あれは・・・
ガウリイと笑いあってる黒髪の美女。
何回か見たことのある人。
ガウリイと同じ大学だって言ってた。
その時は気が付かなかったけど、今ならわかる。
あの人、ガウリイのことが好きなんだ・・・
あたしとガウリイじゃ身長差がありすぎだけど、あの人なら釣り合いもとれている。
知的で落ち着いていて美人で。
何より外見も年齢もピッタリ。
ずきりと胸が痛んだ。
「では、ガウリイ様、14日に・・・」
「ああ」
自動ドアの開く音を二人分の足音。
咄嗟にアメリアごと飛び込んだ店の横であたしは二人の声を聞いていた。
何よ、あいつ彼女いるんじゃない。
俯くあたしの耳に黒髪の女性の足音と自動ドアの開く音が聞こえる。
約束だけして彼女は帰ったらしい。
「リナさん・・・」
「あげる」
「え?」
あたしはアメリアの手に持っていた袋を押しつけた。
「もう要らないから」
「リナさん!」
背中にアメリアの声を聞きながら、その場を立ち去る。
彼女とは反対の方向へと。





To be continued...

2001/2

← 戻る  進む →
← トップ