St. Valentine's Day
〜カノジョの場合〜
5話

あたしはガウリイを呼び出した公園でベンチに座っていた。
冬の日の夕方、人影もまばらでベンチに座っている物好きなんてあたしぐらいだ。
それを知っていたからここを選んだんだけど。
喫茶店みたいに人の多いところは落ちつかないから。
もう何度目になるか分からないが、時間を確認する。
もうすぐ約束の時間。
ガウリイは来てくれるだろうか?
電話ではここに来て欲しいとしか言わなかった。
ガウリイも聞き返さなかった。
あたしが呼び出した理由ぐらいすぐわかるだろう。
それでも、来てくれると思いたい。
1時間だけ待って来なかったら帰ろう。
腕時計に目を走らす。
時間まで後10分。
夕日がうっすらと残るだけになり、公園の外灯がポツポツと灯りだした。
と、その光に長身の人影が浮かぶ。
来てくれたんだ・・・
あたしは立ち上がって彼を待った。
黒いロングコートを着たガウリイが足早に近寄って来た。
「悪い、遅れたか?」
「ううん、時間前だよ。
それよりゴメン、呼び出したりして」
「いやそれはいいんだ。
それより、今日は・・・」
言いかけたガウリイがフッと黙った。
やっぱり迷惑だったかな。
でも。
今日は聖バレンタインデー
ちゃんと自分の気持ちを伝えるって決めたんだから。
「これ、受け取って欲しいの」
決心が鈍らないうちに、水色の包装紙でラッピングしたチョコを差し出す。
「オレに・・・か?」
無言で頷く。
「チョコレートだよな?」
更に頷く、と。
「ありがとな、リナ!」
まさに満面の笑みでガウリイが笑った。
ほら、今よ。
一回だけ深呼吸。
「ガウリイ・・・」
「何だ?」
「す、・・」
「す?」
はぁ・・・もう一回だけ深呼吸。
「ガウリイのことが好きだよ」
言ったぁ・・・
どうせ返事は分かってるけど、もうこれでいい。
「嬉しいよ」
俯いて返事を待っていたあたしは、ガウリイに抱きしめられていた。
え?
「ちょっと待って。彼女は?」
あたしを抱きしめる腕から藻掻きながら身を離すと、きょとんとこちらを見つめる瞳と視線が合った。
「彼女って?」
「ほら黒髪の・・・」
この間の言葉が思い出される。
14日って言ってた。
もう会ったの?
それともこれから?
うーんと考え込むガウリイに腹が立ってその頭を叩いてやった。
今日会う約束をしてる彼女を忘れるな!
「ほら同じ大学の!土曜日の晩に今日会う約束してたでしょう!」
「え、ああ、シルフィールのことか」
シルフィールって言うんだ、彼女。
また、ずきりと胸が痛んだ。
ええい、女々しい。
決めたんでしょ。自分で。
しっかりと頭を上げてガウリイの顔を見つめる。
「シルフィールさんと仲良くね」
もうこれ以上は堪えられなくなって立ち去ろうとしたあたしの腕を、ガウリイがえらく慌てた様子で掴む。
「ちょっと待てよ。
オレ、彼女なんていないぞ!」
「嘘、だって今日会う約束してるんでしょ?」
「まあ、会う約束はしたけど・・・」
「だったら・・・」
「あのな」
言い募るあたしにガウリイが呆れたように首を振った。
「バレンタインだからって、講義が無くなる訳じゃないんだぞ。
シルフィールには借りたい資料があったから、ちょうど講義のある日を・・・
ってなに座り込んでるんだ?」
クラクラと目眩がしてベンチに座り込む。
もしかしてあたしの勘違い!?
でも、あの人がガウリイを好きなのは変わらない。
「でも、あの人にチョコもらったでしょう?」
ベンチに腰を下ろしたまま、その顔を見上げると、ガウリイが明後日の方へ視線を逸らした。
「う゛、まあ・・・」
「あの人本気よ。
本気で、ガウリイのことが好き・・・」
「ストップ」
あたしの言葉をガウリイが強引に遮る。
「オレが好きなのはリナだから。
リナだけだから。
リナにそんな事言って欲しくない。
・・・シルフィールにもちゃんと言った」
っかぁぁぁぁ・・
「リナ?」
あたしを見下ろすガウリイの視線に、捕まれていない方の手で顔を覆った。
今ごろになって身体の血が沸騰し、心臓がバクバクといいだした。
だって、てっきり・・・と思ったから、だからあたし・・・
顔、あげられないよ。
だってあたし告白しちゃったよー。
ガウリイはあたしの様子で何かを察したのか何も聞いてこなかった。
その変わりに。
「それじゃあ、誤解が解けたところでやり直そうか」
声と同時に右手が引かれる。
ガウリイはちょうどあたしが告白した後したように、大きな腕の中にあたしを抱きしめた。
う・・・何もこんな所からやり直さなくても・・・
「ありがとな、嬉しいよ」
「うん・・・」
それでも今度は暴れたりしないで大人しくその腕の中に留まっていた。
はずかしいけど、やっぱり嬉しかったから。
「リナ」
俯くあたしを呼ぶ声に顔を上げれば、こちらを覗き込む瞳。
吸い込まれそうな、蒼。
頬に伸ばされる掌を、あたしは避けなかった。



目を閉じる前にガウリイの肩越しに見えた星と、ガウリイの声と、唇にふれたぬくもり。


「リナ、好きだ」

「・・・あたしも・・・」



今日は
St. Valentine's Day
こころを告げる日。




2001/2
あー甘すぎて気持ち悪い(^◇^;)

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やっぱりおまけはいるでしょ♪


「ねえ、何で始めからちゃんと言ってくれなかったの?」
そうすればここまで焦らなくても良かったんだからね。
「リナに合わせたつもりだったんだけど」
手加減してやってるって事?
余裕を見せて笑うガウリイに腹が立ってビシリと指を突きつけた。
「子供扱いしない!」
「んじゃ、ま」
ぐっと身体が抱き寄せられて、耳元で囁かれた。
「愛してる」
う゛・・・
「・・・子供でいいです」
あたしを抱きかかえたままクックッと笑うガウリイ。
『早く大人扱いさせてくれよな』なんて余計なお世話よ。


―――その言葉に秘められた深い意味を、あたしが身をもって知ったのは・・・
そう遠い日じゃなかったわよぉ・・・