ゼルガディスは目立つことを良しとしない。
本来ならこんな場所に居ることも本意ではない。
彼としては部屋の隅に引っ込みこのパーティーが終わるのを静かに待つつもりだった。
そうすれば少なくともあの騒ぎに巻き込まれないですむだろう。
あの騒ぎ―――
人々の目を引きつける三人。

一人はこのパーティーの主役であるセイルーンの王女。
一人はその姿からは想像できないほどの魔力を秘めた少女。
もう一人はその少女の保護者を自称する青年。

それなのに当の目立つ人物が順番に彼の元へ来るのだから堪ったものでは無かった。

特に最後の一人は・・・質すら悪かった―――





Rose of the party






「よう」

傭兵独特の歩き方で足音さえさせず、滑るように近づいてきた青年が手に持ったグラスをあげて挨拶をしてきた。
黒いタキシードを着こなした彼はどの王侯貴族より際だっていた。
鍛え上げられた長身に黄金の髪を一つにまとめ背中に流す。
長めの前髪から覗く瞳は蒼天。
口元を引き結んで立っているだけで人目を引かずにはおられない。

目立つことを極端に嫌がるゼルガディスは顔をしかめてみせるが―――
そんなものガウリイ相手に効果はない。
知り合いが居るから・・・体のいい断り文句に人の良い笑顔。
ゼルガディスをだしに女達の誘いを振り切っての彼の元へ歩み寄る。
確かに知り合いなのは、間違いではない。
いくら他人のふりをしたくても・・・だ。
「旦那か・・・
相変わらずだな・・・」
思わずため息混じりの声がでた。

「あれを放っておいていいのか?」

それが誰のことを指すのか・・・わざわざ言うまでもない。
目の前に立つ青年の世界はたった一人の少女を中心に回っている。
それを身をもって知っているゼルガディスは当然ながらの質問をぶつけた。
もちろんその中には目立つ二人が自分から離れてくれればいいという打算も混じってはいたが、 それはこの二人を知っている者なら当然わき起こる疑問。
だがそれは益々ゼルガディスを混乱の縁に追いやった。

「ああ、たまにはいいさ」
「旦那?」

さらりと返された言葉にゼルガディスは自分の耳を疑った。
青年の少女に対する恋心と呼ぶには激しすぎる執着を知っているだけに―――
だがゼルガディスを混乱に追いやった相手はなぜか楽しげに微笑んだ。

「たまには、な・・・」

チラチラとこちらを、ガウリイを見ている少女の視線。
本人は気づかれないようにしているつもりらしいが、少しでも腕の立つ人間ならすぐ気がつくだろう。
事実ゼルガディスはすぐに気がついたし、彼が気がつくという事は、ガウリイがわからないはずがないのだが・・・
ゼルガディスの見ている前で、やっとガウリイが少女の方へ顔を向けた。
つられるようにそちらを見れば、慌てて逸らされる少女の視線。
目の前の男と喋っているようだが、ガウリイに意識を向けているのは明らかだった。
ゼルガディスは当然ガウリイがすぐ少女の側に行くと思った。
今までの青年なら間違いなくそうしていたからだ。
こんな男の多い場所で、しかもあんな姿の少女を放っておくとは考えられない。
何を喧嘩しているかは知らないが、ピッタリと少女に張り付いて周りの男達を番犬よろしく追い払って・・・
最後に少女にスリッパで叩かれればいつもの二人に戻るだろう。

だが信じられないことにガウリイはゼルガディスに視線を戻してきた。
まるで何も無かったかのように・・・

「・・・旦那・・・・
そりゃあ凶悪だろう―――」
「そうか?」

青年はまるで邪気のない様子で首を傾げた。
しかし、それにだまされるようなゼルガディスではない。
この男は自分の容姿を十二分に心得た上でやってるから始末が悪い。
少女に同情せずにはおられないゼルガディスが深々とため息をついた。
頭のいい少女もこういう事はからっきしらしい。
ガウリイの態度一つでこうも翻弄されるとは。

「大体旦那らしくもない。
いつもの余裕はどうしたんだ?」


「―――リナから仕掛けてきたんだぜ」
青年の声の調子が少し変わった。
普段見せることのない本当の姿。

ゼルガディスが自分でもわからないまま躰を震わせた。
今の少女は自分が何をしているのかわかっていない。
最初はただ単にガウリイの反応を見るつもりだったのだろう。
そして今は意地になって彼を煽っている。

残酷なまでの無邪気さで―――



「旦那・・・せめて手加減してやれよ」

ゼルガディスは止めることなど出来ない青年に声をかけた。
彼に出来るのはこれ以上の騒ぎが起こらないように祈るだけだ。
そんなゼルガディスを後目にガウリイは涼しい顔で酒を口に運ぶ。




その視線の先には庭に出ていく少女の姿があった。



2000/11


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