その日彼女は完璧だった。

いつもと違いうっすらと施された化粧。
躰に沿ったラインは女性らしい丸みを描き、ウエストからは幾重にも重ねられたスカートがフワリと広がる。
細い腕を隠す長手袋。
髪をアップにしたせいで露わになった首筋には後れ毛が遊ぶ。
その身を飾る宝石たちも今日ばかりは霞んで見えた。
その華奢な躰を包むのはローズカラー ―――


微かな笑みを浮かべて、彼女は青年を見上げた。





Rose color






いつものように旅を続けていたリナ達の元に、一通の手紙が舞い込んできた。
差出人はアメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。
ご丁寧にも王家の紋章の入ったそれはアメリアの誕生パーティーの招待状だった。
気軽に旅をすることも出来なくなったアメリアはそれに託けて自分達に会いたいらしい。
別にこれといった目的もなかったリナ達は一も二もなくそれを受けた。





「誕生日おめでとう。アメリア」
「リナさん、ありがとうございます」

ごく内輪のものとアメリアは言っていたが、そこはやはり王族らしくとてもそうとは思えない華やかなものだった。
セイルーン王家の血に連なるものや、はたまた大臣等の御歴々、その家族。
久々の再会とはいえ気軽に話すには人が多すぎた。
取りあえず挨拶はしたものの、あまりの人波にリナはそこから身を引いた。
そしてぐるりと見渡した会場のその中に懐かしい顔を見つけた。




「お久しぶり。ゼル」

リナはゼルガディスに歩み寄ると、親しげに話しかけた。
どうやらアメリアに捕獲されたあげく、泣き落としでも食らったらしい。
不機嫌ながらも壁により掛かるようにして彼は立っていた。
それでも逃げないところが律儀な彼らしい。
思いがけない再会にリナの顔がほころぶ。

「元気にしてた?」
「リナ・・・か?」
「そうよ。もうあたしの顔も忘れちゃったわけ?」
まさか自分を忘れるとは思いがたい。
ゼルガディスの戸惑いも気づかずに、リナが顔をしかめる。

「・・・いや・・・・・
・・・馬子にも・・・
よせ、やめろ、冗談だ」
リナの手に灯った魔力にゼルガディスが慌てて言った。
少女なら本気でやりかねない。
「変わったのは見かけだけか・・・
そういえば旦那はどうした?」
「知らない」
リナのわざとらしく逸らされた顔とは反対の方向にスラリとした長身が見えた。
黒のタキシードを着た彼は周りの視線を一身に浴びながら悠然と佇んでいた。
珍しくゼルガディスが狼狽え、瞳が宙を泳いだ。
「これを一人にするとは・・・
旦那も思いきったことを・・・」
「どやかましい!」
ゼルガディスの足をハイヒールで踏みつけリナはその場を離れた。




まったくどいつもこいつも・・・
リナは通りすがりのボーイからカクテルを受け取った。
スカイブルーのカクテル。
自分の相棒の青年を思い起こさせる。
ちらりと横目で見れば遙か向こう、 女性達の姿の間に金色の髪が見え隠れしていた。
「ふん・・・だ・・」
リナは手にしたカクテルを一息で煽る。

先ほどからしきりと自分に話しかけてくる黒髪の青年。
「そうね・・・」
リナは笑って青年を見上げた。



2000/11


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