〜人魚姫異聞録〜その2

あの後・・・

ガウリイを見失った後・・・
望みを掛けていた魔法探査で見つかったのは「妖斬剣(ブラスト・ソード)」だけ。
海の底に有った「妖斬剣(ブラスト・ソード)」。

それでも。

それでも諦めきれなくて、海岸沿いを探して探して探して―――
一週間―――
やっとガウリイらしき人物の噂を聞いた。


一週間ぐらい前に金髪の男性が海岸で倒れていたと。


ガウリイだ。
絶対、絶対、ガウリイだ。
あのガウリイがそんなに簡単に死ぬわけない。
あたしを置いて、死ぬわけがないのだ。
胸の動悸を押さえ、人に聞いた屋敷に行った。
そこで、あの女―――
あの、フィアナ=デュゼルに会った。



「ガウリイに会わせて」
「確かに金髪の方をお助けしてますわ」
あいさつもそこそこにあたしは女に詰め寄った。
早くガウリイに会いたい。
だが。
フィアナと名乗った女がパチンと扇子を閉じる。
「ところで、あなた、あの方の何なんですの?」

「・・・相棒よ・・・」

相棒ってゆーか、ヒモってゆーか。
そこいら辺は人の見方によるだろうけど。
本人曰くあたしの「保護者」だけどね。
保護者だったらあたしにこんな心配させないでよね。

フィアナはジロジロとあたしを見て鼻をならす。
むかっ。
そりゃー今は汚れたかっこしてるけど。
仕方が無いじゃない。
この一週間ろくに休んでないし。お風呂だって・・・

「その格好からすると、旅の魔導士のようですけど。
あたくしはこの国に縁ある―――」
ずらずらと自慢話を始めるフィアナにあたしはイライラしてきた。
一体何が言いたいんだろ
ガウリイを保護してくれたみたいだから、下手にでてるけど。
本当だったら「火炎球(ファイアー・ボール)」もんよ。
あたしの荷物を売り払えば、こんな家の一つや二つポポンと買えるぐらいのお金はあるんだから。

フィアナはあたしのムカムカには気づきもせず、尚も高飛車に話しかけてくる。
「あなた・・・あの方が何で怪我をされたかご存じ?」
怪我・・・
「怪我してるの?」
「ええ、わたくしが見つけたときには息をしてるのが不思議なぐらいでしたわ。
この家付きの魔法医が居なければ決して助からなかったでしょう
おまけに頭も怪我をなさったようで、ご自分の名前も分からないようですわ。」
多分あたしの顔は真っ青になっていたと思う。

記憶
怪我

二つの単語が頭を渦巻く

フィアナは何故か満足げに頷いて、
「あなた、あの方の前から消えていただけないかしら?
幸いなことに、うちは王家とも縁のある旧家。
あの方に、何の不自由もさせません事よ。
その日暮らしの傭兵家業とは比べ物になりませんわ。」
「え・・」
ガウリイと・・・別れる・・・
でも、あたし・・・は・・・・・・・

「では、賭をしませんこと。
一週間の間にあの方が記憶を取り戻せたら・・・」


遠くで誰かがしゃべっている。



何を言っているか聞こえない。


あたしは・・・

ガウリイが行方不明になったあの日から押し殺してきた思い。
あたしといるとガウリイは不幸になる。
ガウリイは悪くない。悪いのはいつもあたし。
トラブルを持ち込むのも、魔族を・・・引き寄せるのも。
いつもあたしを庇って怪我をして。
命を落とすかも知れないのに。

あたしが姿を消せば、ガウリイはきっと心配してくれるだろう。
もしかしたら、あたしを捜してくれるかも知れない。

でも、今なら。

記憶が無いのなら・・・



―――別れられる



ガウリイは幸せになれる。


ガウリイが元気になったら
ガウリイの幸せを見届けたら


あたしは消えよう。


ガウリイの前から永遠に―――





その3に続く...


2000/9


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